【園生智弘コラム】ITを活用したこれからの臨床研究 ②〜業務系と研究系の一本化〜

COLUMN

臨床研究のあり方はIT技術の拡大に伴い急速に変革しています。

本シリーズ記事では、この変革を、医療データの最前線の取り組みに絡めて概説していきます。これからの臨床研究を手がける研究者にとって有用な情報提供となりましたら幸いです。第1回のデータ収集戦略の記事に続いて、第2回の本記事では、ITを活用した臨床研究の実践的内容について触れたいと思います。

*本記事内容の一部は2019年夏に慶應義塾大学にて行われた第25回臨床研究推進啓発セミナーの講演内容及び月刊救急医学2019年12月号の寄稿「ビッグデータと救急・集中治療(園生智弘・中村謙介)」を踏襲しています。*

スポンサーリンク

業務系と研究系の一本化

実際に臨床研究の計画と遂行を経験された方なら、医療機関の実施時に苦労するのは院内スタッフの協力を得るところという点に異論はないでしょう。後ろ向き研究の場合は「きちんとカルテを記載してくれない」「規定の記載場所に記録を行なってくれない」という問題がつきものです。前向き研究ではこれはさらに難しい問題となり、「適応症例なのに研究にincludeしてもらえない」という悩みは付き物ですし、その原因を突き詰めていくと「includeすると入力フォームを記載しないといけないから面倒」という理由だったりします。

大原則として、医療機関で働く多くのスタッフにとって最も重要なことは「臨床業務の遂行」であり、「研究の実施」ではないということは十分理解する必要があります。私たちの提供するNEXT Stage ERも「研究支援システム」として紹介されることも多いのですが、その際、常に強調させていただいているのは「現場はデータのために働いているのではない」ということです。

この問題をIT利用により解決する方策として、医療機関における「業務系システム(≒電子カルテ)」と「研究系システム」を一本化するというのが有効です。

カルテ記載と研究データ収集を両立

後ろ向き研究においては、「診療の際に必須であるカルテ記載業務」を特定のフォーマットに統一する方法が有効です。

従来のカルテテンプレートも、記載内容を一定のフォーマットに統一するのに有効なのですが、とにかく展開にやたら時間がかかったり、クリックを大量に必要とするので入力が面倒という欠点があります。私たちの提供するNEXT Stage ERの画面の医師入力画面を下記に示しますが、これは要するに「サクサク動く気の利いたカルテテンプレート」です。このテンプレートには言語処理技術でテキスト記載を自動で構造化する技術が仕込まれていたり、救急隊が電話で申し送ってくる通りの順序でカーソルが動くなど、様々な入力支援技術が仕込まれています。さらに、救急車を受けた医師・看護師により病院前のバイタルサインが記載完了、トリアージ実施時点でトリアージナースにより病着時のバイタルサインと現病歴が記載完了、さらに既往歴や服薬情報は過去の受診から自動で引っ張るので、「入力欄が多いように見えて、皆で協力して入力したデータを統合するため、個々人の入力箇所が少ない」というのが特徴になります。このように「カルテ記載業務」をデータ収集と両立させるITシステムの活用は臨床研究の実施においてきわめて有効です。

NEXT Stage ERの医師入力画面

引き継ぎ表を研究ツールにする

カルテ記載以外にも病院ではスタッフ間の情報共有にいわゆる「引き継ぎ表」が使用されます。これを特定のフォーマットに統一することも有効です。

下に示すのは日立総合病院のICUデータベースの事例です。入院患者さんの主病名、日毎のプロブレムリスト、医師・看護師それぞれの詳細な引き継ぎ情報が記載されています。このデータベースは、毎朝の医師カンファレンスで書き足され、印刷して回診に使用されています。看護師も勤務帯ごとの情報引き継ぎに利用され、院内全体のベッドコントロール用の患者リストもここから出力されます。つまり、電子カルテでカバーできない「病棟業務の引き継ぎ」をカバーする業務システムそのものなのです。業務システムだからこそ、本システムは電子カルテ画面上で動かしています。記載事項は電子カルテにもコピー&ペースト可能です。

日立総合病院ICUデータベース 患者リスト画面
ICUデータベース 患者個別画面

一方、この画面をよく見ていただくとわかるように、SOFA / APACHEなどのスコアリング機能がマウントされていたり、日々のカロリー摂取量やin-outなどもダッシュボードとしてまとめておくことができます。看護師の引き継ぎ業務用にデバイスを記載する画面があるため、CRRTや人工呼吸器の実施日数も自動集計可能となります。さらに、日々のプロブレムリストは表記揺らぎを吸収する辞書を用いてICDコードに紐付けされるため、「Day3に発作性心房細動を発症した」「Day10にVAPを発症した」といった詳細な臨床病歴が全て構造化されます。

このような運用を駆使することで、医師・看護師の日々の業務は研究データ収集と一体化させることが可能であり、データを「無理矢理集める」のではなく「無理なく集まる」環境を構築できます。

 

前向き研究入力フォーム

最後に、前向き研究の入力フォームについて述べます。前向き研究の場合は、データ入力フォームの記載がどうしても日常の臨床業務と分離してしまいがちです。さらに、複数のスタッフで多くの症例を見ている急性期医療現場において前向き研究の対象者を効率的に拾い上げてincludeするのは至難の技です。この場合も、業務系システムの中に前向き研究の症例入力フォームを組み合わせてしまう方法がきわめて効果的です。

NEXT Stage ER画面上の前向き研究入力フォームの起動ボタン

上の画面は、NEXT Stage ERの患者一覧画面上の各種前向き研究のフォーム起動ボタンです。赤で囲んだような情報追加入力ボタンが、各患者さんの来院経路や主訴・病歴等に応じて変幻自在に出現するように条件設定しています。(この場合はドクターカー・ラピッドカー患者の場合のみプレホスピタルの情報入力を必須とし、てんかんや関連キーワードを有する患者さんにのみてんかん重積の前向き研究へのincludeを実施するボタンを配置しています。)

実際にこの「プレホス詳細」のボタンをクリックすると下記のような画面に遷移します。ここでは、詳細なプレホスピタルでのタイムログや処置・時系列バイタルを記録することができます。現在NEXT Stage ERを導入している複数の施設で、プレホスピタルの多施設研究というchallengingな課題に挑もうとしています。

NEXT Stage ER ドクターカー情報入力フォーマット

このように現場業務に十分浸透しているITシステムを前向き研究のプラットフォームとすることで、前向き研究のincludeが可能な患者さんを確実に特定し、ユーザーに情報入力を促し、後日これらの情報を一括で出力してレジストリに登録することが可能になります。

まとめ

業務系システムと研究系システムを一本化することで研究データを「無理矢理集める」ではなく「無理なく集まる」仕組みを構築することは可能です。一方、これはシステムを導入すればすぐ実現できるような平坦な道では決してありません。若手のITリテラシーの高い現場担当者の指揮のもと、カルテと連携させるための情報部門との折衝、各職種の業務フローを分析しての業務移行、不要な紙書類の廃止など、数年がかりのプロジェクトになります。それでもなお、臨床研究の今後の動きを見越した場合には取り組む価値は高いと考えられます。

次の第3回の記事では、先進的な研究事例の紹介と、企業とアカデミアの関係性について書こうと思います。

寄稿:園生智弘(そのお・ともひろ)
TXP Medical 代表取締役医師。
東京大学医学部卒業。救急科専門医・集中治療専門医。
東大病院・茨城県日立総合病院での臨床業務の傍ら、急性期向け医療データベースの開発や、これに関連した研究を複数実施。2017年にTXP Medical 株式会社を創業。2018年内閣府SIP AIホスピタルによる高度診断・治療システム研究事業に採択(研究代表者)。日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会委員。全国の救急病院にシステムを提供するとともに、急性期医療現場における適切なIT活用に関して発信を行っている。TXP Medical 代表取締役医師。

関連記事