【園生智弘コラム】ITを活用したこれからの臨床研究 ③〜リアルワールドRCT・問診アプリ・企業とアカデミア〜

COLUMN

臨床研究のあり方はIT技術の拡大に伴い急速に変革しています。

本シリーズ記事では、この変革を、医療データの最前線の取り組みに絡めて概説していきます。これからの臨床研究を手がける研究者にとって有用な情報提供となりましたら幸いです。第1回のデータ収集戦略の記事に続いて、第2回の本記事では、ITを活用した臨床研究の実践的内容について触れたいと思います。

*本記事内容の一部は2019年夏に慶應義塾大学にて行われた第25回臨床研究推進啓発セミナーの講演内容及び月刊救急医学2019年12月号の寄稿「ビッグデータと救急・集中治療(園生智弘・中村謙介)」を踏襲しています。*

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救急リアルワールドRCT

救急領域でのRCT(ランダム化比較試験)は困難であることが知られています。なぜなら、救急領域では患者さんの個人同意がその場で取れることが少なく、処置と同時並行でランダム化をその場で行う必要があるからです。このような課題に関して、私たちはソリューションを提供しています。

2020年春より開始され、筑波大学附属病院を主研究機関とした特定臨床研究「てんかん重積に対するレベチラセタムとホスフェニトインの有効性の比較:他施設前向き無作為化非盲検化比較試験」を例に説明します。この研究は、特定臨床研究として倫理審査を承認され、研究用EDCの構築はTXP Medicalが行っています。てんかん重積の患者さんの多くは救急搬送時に意識がないため、代諾者同意のもと、研究は行われます。また、救急担当医のスマートフォンで救急処置と同時に迅速な除外基準チェックと患者登録、即時ブロックランダム化ができるようになっています。

処置室にEDCアクセス用のQRコードを張り出しておき、これをスマートフォンで読むと上記の画面に遷移し、除外基準チェックポイントをチェックします。

項目入力後、無作為化ボタンを押すことで上の図のように、ブロックランダム化がなされます。アプリ起動からここまで、処置室を離れる必要もなく、個人のスマホで1分とかかりません。このような手法であれば、救急外来のように処置と同時に研究データを収集するような場面でさえ、RCTの実施は十分可能です。2020年9月現在、この研究は国内8施設程度で症例登録が開始されており、救急領域における多施設前向きRCTの新しい形を提唱しています。

問診アプリの利用

もう一つ、救急・初診外来の領域においては問診アプリを利用して臨床研究を実施することも可能です。

救急外来に来院した患者さん、あるいは内科等の初診外来で必ずといって良いほど使われるのが紙の問診票です。実際、これらの外来部門で前向き臨床研究を行おうとした場合、紙の問診票の説明と合わせて臨床研究のインフォームドコンセントを行うケースも多いことでしょう。ここにWeb問診アプリを組み合わせた場合、オプトインの患者同意のもと、問診データから院内のデータまで統合解析した臨床研究を行うことができます。

当社の問診アプリの個人情報利用同意規約の画面例をこちらに示します。

問診アプリの使用開始時に表示される個人情報等の利用に関する同意画面

TXP Medical社の事前問診アプリは、ごく簡単なリーフレットを用いて患者さんに案内することができ、患者さんは自身のスマホやタブレットで入力することができます。入力した情報はQRコードに変換され、どのベンダーの電子カルテを使っていようとも、QRコードリーダーを用いてワンタッチで電子カルテに情報を転記できます。医療機関における問診票記載依頼、収集とカルテ記載という業務も大幅に軽減する方法です。

最近のコロナ渦では、特に「非接触問診アプリ」のニーズが高まっており、今年4月に公開したTXP Medical社の COVID-19対応非接触問診アプリは公開後2週間で18箇所の大病院から利用申し込みをいただきました。その後、このTXP MedicalのCOVID-19問診アプリを活用した、病歴情報からCOVID-19患者を診断する機械学習アルゴリズムを開発する多施設共同研究も2020年夏より亀田総合病院の白石先生を中心に走り始めています。

臨床研究をめぐる企業とアカデミアの関係

質の良い臨床研究を行うためには、質の良いデータ、そしてハイレベルな研究チーム、さらにそれを支える資金が必要です。この3つの観点で、特に昨今は研究に対してIT企業の果たす役割が大きくなってきています。こちらは医療分野ではないですが、AI研究において研究論文の発表数は学術施設ではなくGoogleが世界一となっているというStanford大学からの研究チームからの報告です(報告内容twitter)。

医療分野においてもこの流れは確実に進んでおり、例えば医療における画像機械学習の先駆けとも言える2016年のJAMAに発表された糖尿病性網膜症の機械学習による診断アルゴリズムの研究(https://static.googleusercontent.com/media/research.google.com/ja//pubs/archive/45732.pdf)では、funding/supportの1行目に”Google Inc. supported the study”と記載があります。日本でも、血圧計の最大手オムロン株式会社が主導した研究で、国民の血圧変動の傾向を解析したビッグデータ研究がpublishされています。(https://bmjopen.bmj.com/content/8/1/e017351)

IT企業の強みは、自社でITシステムを提供し、データの規模や内容をコントロールする潜在的なパワーを有していることだと考えられます。資金面だけでなく、データ収集のスキームにおいても今後IT企業の果たす役割はますます大きくなると予想されます。また、IT企業の場合、製薬企業と異なり「臨床研究結果を左右するインセンティブ」が存在しないことも大きなポイントです。例えば、上の血圧の研究では血圧の季節変動がどういうパターンであろうともオムロン社に直接の利害は生じません。臨床研究実践の中で、アカデミアとIT企業が有機的に連携していくことは今後ますます重要になるでしょう。

まとめ

臨床研究におけるITを用いた先進的な事例を紹介しました。

私園生がTXP Medicalを通じて実現したい夢、それは日本の急性期医療領域でシステムプラットフォーマーとなると同時に、世界で戦えるリサーチ拠点を構築していくことです。臨床研究を通じて医療の質を向上させていく、その一端を担えるよう引き続きまっすぐに取り組んでまいります。

寄稿:園生智弘(そのお・ともひろ)
TXP Medical 代表取締役医師。
東京大学医学部卒業。救急科専門医・集中治療専門医。
東大病院・茨城県日立総合病院での臨床業務の傍ら、急性期向け医療データベースの開発や、これに関連した研究を複数実施。2017年にTXP Medical 株式会社を創業。2018年内閣府SIP AIホスピタルによる高度診断・治療システム研究事業に採択(研究代表者)。日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会委員。全国の救急病院にシステムを提供するとともに、急性期医療現場における適切なIT活用に関して発信を行っている。TXP Medical 代表取締役医師。

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