【高尾洋之コラム】「デジタル医療」の一丁目一番地とは

#2 「デジタル医療」の一丁目一番地とは

 前回は、DtoDのオンライン診療について認めていくべきだという話をしましたが、今回はそう考える理由についてお話ししたいと思います。といってもこれは非常にシンプルな話で、医療従事者と患者さんの両方に「よい治療を素早く提供でき、受けられるようにする」という明らかなメリットを提供できるからです。デジタル技術の普及のさせ方という観点からも、現在の対患者さんのみへのオンライン診療を広げるために「患者さんの利便性」だけを訴求するのではなく、医療そのものを手助けする、具体的には診断とそれに基づく医療行為の精度と速度を高める技術を認めていくほうが、価値を認めていただきやすいと考えています。

 そのためには、デジタル技術を活用した「臨床研究」だけでなく、「診療」行為を幅広く支援する仕組みが国家的に必要です。その端緒として、オンライン診療の分野については「DtoDtoP」あるいは「DtoPwithD,N」を診療報酬での手当ても含めて認めることが必要だろうと考えているわけです。まずこの取り組みが支援されれば「オンライン診療においてもリアルタイムに診療に必要な情報を揃え、把握できる環境づくりを進める必要性」が具体的に生じるからです。

 「DtoP」のみのオンライン診療でもそれは可能ではないか?という声も確かにあるでしょう。しかし、それでは患者さんとまず向き合う主治医がひとりだけで、出会った患者さんとお持ちの疾患すべてに対し専門医に匹敵する対応ができるのか、そもそも診断に必要なデータが揃うのか、という問いに答えられません。オンライン診療云々関係なく、現在は検査、画像診断など多くの専門家が主治医を支えているのが実情ですし、関連する診療報酬も認められています。『リアルタイムのオンライン診療の場面だけ認めない』というのはむしろ不自然なのです。

 ただ、いま認められていないのはひとつ明確な理由があるから、とも思います。現時点で診療報酬が認められている専門医からの支援(画像診断含む)や検査などはすべて「オフラインでタイムラグがある」もの。純粋に、リアルタイムに安全にデータを送受し診断や診療に活用できた、という事例が国内では少なすぎ認めようがない、という側面もあるでしょう。手前味噌で恐縮ですが、アルムと二人三脚で開発した「Join」「MySOS」はそのためのツールとして要件は揃えてあります。これをもっと医療機関が使えるようにしてもらえれば、という思いはいち研究者としてはもちろんありますが、国としてデジタル医療を一刻も早く進めるためには、一定の要件をクリアする様々なベンダーのプロダクトが参入でき、扱う医療データの互換性も担保されるようにして、事例をもっと多く積み上げられるようにすることが必要ではないでしょうか。

 といっても、ほぼすべてのレイヤーにおいて部分最適で動いている現時点の日本では、全方位に一気に進めることは難しいものがあります。診療報酬で認めることを視野に入れるのであれば、例えば同じ疾患の医療行為に必要なデータが医療機関ごとに違っていたり、手に入る時間に差があったりなどしてはいけません。つまりデジタル医療を進めるためにまず必要な具体的打ち手は、国が率先してデータ保存のあるべきモデル(クラウドになるでしょう)や、医療機関なら広範にアクセスできるネットワークを整備し、インフラを整えることです。そのうえで、「Join」のときのような「施設要件の緩和」という間接的な理由で保険適用するのではなく、そのプログラムそのものの機能を医療の観点から評価し認めていくことだと思います※1

 実は研究部ではそれを見越し、研究パートナーと新たな研究を進めようとしています。先日もご紹介した「デジタルヘルス解説集」でアルムの坂野社長が話していますが、今後はどのような疾患、どのような段階の治療に対し、オンライン診療が適しているのかのエビデンスを出していければと考えています。具体的な発表ができるのはこれからですが、今後も折に触れてこの場で発信できたらと思います。

またこの回を執筆するにあたって、技術的に役立つ事例紹介や解説を「デジタルヘルス解説集」のコラムとしてまとめましたので、そちらも是非ご覧ください

※1 昨年12月6日に開催された規制改革推進会議の医療・介護ワーキンググループの会合では、専門委員から同様の指摘がされている 
  https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/iryou/211206/211206iryou_ref02.pdf

寄稿者:高尾洋之(たかお・ひろゆき)

東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 / 脳神経外科学講座 准教授

2001年 東京慈恵会医科大学卒業
2001年 東京慈恵会医科大学脳神経外科学臨床研修医 研修医
2003年 東京慈恵会医科大学臨床大学院 脳神経外科学講座 大学院
2007年 東京慈恵会医科大学附属第三病院 勤務 助教
2008年 東京慈恵会医科大学附属病院 勤務 助教
2010年 東京慈恵会医科大学臨床大学院 脳神経外科学講座 大学院 博士課程修了 (指導教官:阿部俊昭 教授)
2012年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校神経放射線科 留学 リサーチアシスタント
2014年 東京慈恵会医科大学附属病院 勤務 助教
2014年 東京慈恵会医科大学附属病院 非常勤助教
2014年 厚生労働省 医政局 研究開発振興課 医療技術情報推進 室長補佐
2014年 東京理科大学 客員准教授(〜2019年3月)
2014年 東京医科歯科大学 血管内治療科 非常勤講師
2014年 厚生労働省 医政局 経済課 医療機器政策室 室長補佐
2014年 厚生労働省 医政局 経済課 課長補佐(〜2015年3月) 
2015年 東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 / 脳神経外科学講座 准教授(兼任)
2016年 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官(〜2019年3月)
2017年 大阪市立大学大学院医学研究科 客員准教授(~2019年3月) 
2018年 北海道大学病院 客員臨床准教授(~2019年3月) 
2018年 兵庫医科大学 非常勤講師(~2020年3月)
2019年 World Federation of Neurosurgical Societies 出版・広報委員
2020年 東京医科歯科大学 客員教授

研究業績/著書などの情報はこちらをご確認ください(東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部ホームページ)