EDAC、IoTシンポジウム開催 命を救うテクノロジーとは何か

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2017年2月8日、一般社団法人EDAC(救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会)は、都内で「IoTに関するシンポジウム」を開催した。EDAC自身が進めるドローンなどのIoTデバイスを活用した実証実験の報告のほか、他団体の事例、EDACも採択されている総務省の「IoTサービス創出支援事業」の紹介など、医療におけるIoT活用のいまを総覧し、今後を展望するものとなった。

IoTサービス創出支援事業とは?

総務省は生活に身近な分野でのIoT活用を推進する「IoTサービス創出支援事業」、通称『身近なIoTプロジェクト』を平成27年度から開始している。

出典:「IoTサービス創出支援事業」ウェブサイト http://www.midika-iot.jp/terms

EDACはこの第1期に採択された8チームのひとつで、「救急医療・災害対応におけるIoT利活用モデル実証事業」を担当。複数回実証実験を行ない、極限時における先端技術の有用度や課題を検証してきた。この日のシンポジウムは、まず現実の災害における先端技術の活用度を探る意味で、2016年4月の熊本地震における状況報告から始まった。

災害時の医療機関の状況を登録するシステム、半数近くが「未登録」

熊本県健康福祉部健康局医療政策課 内田公彦氏

招待講演で登壇した熊本県健康福祉部健康局医療政策課の内田公彦氏は、発災直後にDMAT(災害派遣医療チーム)などの外部支援チームの投入場所を検討するための、医療機関の被災状況を共有するEMIS(Emergency nformation System)について紹介。首尾よく稼働していれば貴重な資源の効率的な投入に役立つはずだったが、実際は基本となる情報の登録率が半数程度にとどまり、情報を補うために電話やFAXの人海戦術が必要となったことを紹介した。

EDAC副理事長/佐賀県庁職員/総務省地域情報化アドバイザー 円城寺雄介氏

日常からシステムに習熟しておくことの必要性を示す報告に、EDAC副理事長で、佐賀県庁職員、総務省地域情報化アドバイザーでもある円城寺雄介氏は、「日常的に使っていないと非常時の活用はおぼつかない」と補足した。また、佐賀県が被災地支援を行なった際のエピソードに触れながら「佐賀県は西原村を支援したが、県庁全体でタブレットを日常業務に使っているので、テレビ電話を機敏に使うことなどでスムーズに情報共有ができていた」と習熟しておくことの効果を語った。

傷病者救護開始までの時間が半分以下に短縮 EDACの実証実験

続いて、救急医療・災害対応への先端技術活用例の報告に入った。最初は、その円城寺氏が所属するEDACの事業。2017年1月下旬に行なわれた屋外での実験報告を中心に行なわれた。

EDACでは「命を救う」をキーワードに、救急・災害時のIoT活用で、傷病者の発見までの時間、搬送時間の短縮などの「救急医療の最適化」を目指して活動している。具体的には、自発的な手段しかなかった「通報」においてウェラブルセンサーによる自動通報の可能性を探ったり、発見手段にドローンを活用し、空からの視点で素早い発見ができるか検証を続けている。この日はEDACが重点的に検証しているこの2類型について報告された。

1つめは「通報の最適化」を目的にしたもの。筋電位・心電位などを生体信号を肌に触れているだけで取得できる機能素材「hitoe」を活用し、心停止が起きた際自動で位置情報を発信、指令センターが受け取る実験だ。これが普及できれば、側に誰もいない状態で意識をなくした人を、素早く救助できることに繋がる。システム構築のハードルは高くないが、現在日本の消防では、残念ながら一部を除けば電話による通報受信以外を想定していない。円城寺氏は民間で自動通報を受け取り、電話するサービスがあってもいいのではないかとした。

2つめは「傷病者の素早い発見」を目的にしたもので、電話による通報後、取得しているGPS情報をドローンに送り現場付近まで飛行させ、素早い発見を目指す実験だ。これまで複数回、九州大学伊都キャンパス内にある山間部で行なわれている。比較としてドローンを使わない従来手法での実験結果も示された。

従来手法の実験では、通報時の情報(GPSの位置情報も含む)をもとに、救急救命士が捜索。4回の実施で発見まで平均37分かかった。山間部での捜索だけに、通報時にも位置に関しては「草と木しか見えない」という情報しかなく、捜索隊の経験とカンが頼り。ただ実験は福岡医健専門学校救急救命科の学生が捜索隊員として協力しており、時間に関しては「経験あるプロならもう少し短縮されると思う」(円城寺氏)とした。

続いてドローンを活用した実験の結果が示された。通報後、ドローンに傷病者の位置情報を読み込ませ、セットアップ後その位置まで飛行。操縦者がドローンの画像で傷病者の位置を確認する。4回実験したうち、最短でセットアップ含めわずか3分35秒で発見できた回もあった。

発見までの時間は目覚ましい改善だが、ここにはまだ課題がある。ドローンで素早く発見できても、その位置に救急隊員が辿り着かなければならないからだ。ドローンが捜索隊から見えれば、それを頼りに捜索隊が向かえるが、場所によっては捜索隊が目視できない場合もあり得る。そのケースでは統括する指令センターやドローンの操縦者が、音声で捜索隊の位置が分からないままガイドする必要性があり、到着まで時間がかかる可能性を否定できない。

ドローン映像に目印をつけ、ガイドする (映像提供:EDAC)

そこでEDACでは、ドローンの映像をドローンのコントローラー以外にも伝送するシステムを別途開発し、指令センターにも共有している。さらに捜索隊員にスマートグラスを装着させそこにも画像を送り、ドローンからの画像に、傷病者が見つけやすいよう目印をつけたり、矢印で捜索隊の位置から傷病者の方向を示してガイドするなどの検証も行なっている。

円城寺氏は、これでもまだ、傷病者が木の影に隠れてドローンが発見できなかった場合もあり、改善すべき課題は多いとし「万能なものはない。ないのであれば、工夫を凝らしていまあるものを組み合わせ、活路を切り拓きたい」と語った。

特殊災害現場でのIoT活用 消防隊員の安全を守る「突入撤退判断システム」

杏林大学医学部救急医学教室 加藤聡一郎氏

続いて紹介されたのは、NBC(核、生物、化学)災害と言われる特殊災害現場におけるIoT活用の事例だ。極限中の極限とも言える状況だからこそ、現場に突入する消防隊員の安全確認と確保は最重要の課題といえる。東京のDMATを統括する立場でもある杏林大学医学部救急医学教室 加藤聡一郎氏らのグループは、危険な現場にまず無人で向かい状況を調査する車両の開発と、現場に突入した隊員のバイタルなどをリアルタイムに指揮本部で確認でき、撤退のタイミングを判断するモニタリングシステムを研究開発している。

2015年に行なわれた実証実験では、放射線量が高い現場を想定。無人調査機から線量を測定する中継器を発射し遠くへ着地させ、現場の線量を確認したり、消防隊員が身につけた有毒ガスセンサーや心拍、姿勢、呼吸数など測定するウェラブル機器からの情報をリアルタイムにモニタリングし、活動限界を見極める実験が行なわれた。

加藤氏は「医療におけるIoTの活用用途は幅広いが、研究を進めるには課題も多い。命を扱うものであり規制も多いので、明確にターゲットを絞る必要がある」と語った。

技術の未来を見て、2020年の未来を語る

シンポジウムは続いて、IoTを支える技術の将来像を展望した。まずはEDAC理事長であると同時に、ドローンの最新事情に明るいウォッチャーでもある稲田悠樹氏が、近未来のドローンの技術進展について語った。

EDAC理事長 兼 最高現場責任者(CGO) 稲田悠樹氏

稲田氏は「2015年のホビー用途のドローンにはカメラがなかったが、たった1年後の2016年の同額程度のドローンはカメラが付き、リアルタイムに映像送信ができるようになった」と、いまは加速度的な進化の時期にあると述べた。そして2020年までの予測ロードマップを見せ、「2017年からはセンサー類の搭載、2020年には配送・輸送用途での活用が始まって、さらにどんどん積載量がアップしていくだろう」とした。

次に通信環境の進化、2020年に実用化が予定されている「5G」について、総務省電波政策課 情報通信政策総合研究官の片桐広逸氏が解説した。

総務省電波政策課 情報通信政策総合研究官 片桐広逸氏

5Gの特徴は「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」だといわれる。速度はLTEの100倍となり、1km平方メールあたり100万台のIoT機器を同時接続でき、さらに遅延は1ミリ秒程度となる。これまでの通信規格の進化とは次元の違う革新的な変化は、救急医療や災害時の防災・減災オペレーションのかたちも劇的に変えるという。

例えば超低遅延であることを活かせば、一刻の猶予を争う状態の患者に対し、ドクターヘリ内に搭載したロボットを遠隔から操作し緊急手術も可能になる。ドローンは5G技術の将来性に深く関わるもので、いずれ医療機器、薬品、AEDなどを搬送する用途も開発されるだろうとした。片桐氏は「5Gは都市よりも、地方においてもっと活用できる技術だ」と語り、今後の多様な事例の創発に期待を寄せた。

「日本はよくやっているよね、というモデルを創りたい」

最後は登壇者と円城寺氏で、「2020年までにIoTを始めとした先進技術が社会に普及するために必要なこと、EDACに期待したいこと」というテーマで、意見を述べあった。その中で最初に上がった話題は規制の突破だ。パネリストとして参加していた総務省情報流通振興課企画官の渋谷闘志彦氏は、「何故できないのだろうと言っても何も始まらない。EDACさんにはある意味無邪気に規制にも意見を言っていただきチャレンジしてもらいたい」と語った。これには片桐氏も同じように「柔軟に考えているので意見を言って欲しい」というエールが送られ、また、どんどんアグレッシブにやって欲しいという言葉も聞かれた。同じ医療分野での活用事例を提示した加藤氏からは「ゴールの方から技術を考えることも必要。医療との関連で言えば、(医療者が)ICTに対するリテラシーが高いとは言えないので、歩み寄っていくためにEDACの発信力に期待している」との発言があった。

識者の発言を受け、円城寺氏は「実証はあくまで実証であり、社会実装に落とし込んでいかなければいけない」とし、「なくてはならないものも大切だが、あったらいいな、という夢のあるものを進めていきたい。人口減少、高齢化の中、日本はよくやっているよねと思われるモデルを創っていきたい」と、今後のEDACと自身の将来に向けて抱負を語った。

今後もEDACは一般社団法人として活動を続け、2017年度からはより社会実装に近づけるため中山間地域での実験、導入も視野に入れ活動の幅を広げていくという。「命を救う」という極限の命題に挑み続けることは、結果的にテクノロジーの可用性を高め、磨いていくことにも繋がる。EDACが示す先端技術に対する姿勢は、イノベーションを起こすための指針にもなるはずだ。

Med IT Tech編集部では、このシンポジウムでも報告された2017年1月23日実施の実証実験も取材。連載企画「風は、西から吹く」の中で、EDACの設立や実証実験開始までの経緯も追っている。

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