富士フイルムと国立精神・神経医療研究センターの研究グループは、軽度認知障害(MCI)患者が2年以内にアルツハイマー病(AD)へ進行するかどうかを最大88%の精度で予測する人工知能(AI)の開発に成功したと発表した。今後両者は、治療薬の臨床試験の患者選定にこのAIを適用することを目指し、有用性のさらなる検証を進めるとしている。
進行と関連性が高い、脳内の特定区域を対象とした深層学習でAI開発
アルツハイマー病の主要な原因物質である「アミロイドβ」は、発症前から蓄積し始めることがよく知られている。近年この事実に着目し、より早期の段階である軽度認知障害(MCI)患者をターゲットに新薬の臨床試験が実施される例が増えているが、ほとんどの試験で成功に至っていない。これは2年以内にMCIからアルツハイマー病に進行する患者の割合が2割未満※1と少なく、臨床試験期間中に進行しないMCI患者が多く存在することで、統計的有意差を証明できないことが一因であるという。今回、未だアルツハイマー病の根治を目指せる治療薬が開発されていない事実を鑑み、新薬の有効性を正しく評価できるようにするため、富士フイルムと国立精神・神経医療研究センターの研究グループが、MCIからADに進行する患者を予測するAIの開発に取り組んだ。そうした患者のみを対象にした臨床試験が可能になれば、新薬の有効性を正しく評価でき、ひいては治験の成功に繋がるからだという。
実際の開発では、脳のMRI検査の三次元画像からADの進行と関連性が高いと言われている海馬、前側頭葉を中心とした区域をそれぞれ特定。深層学習を用いて両区域から進行に関わる微細な萎縮パターンを抽出し画像特徴量として算出することで、進行について高精度に予測することが可能になったという。
開発したAIの検証は、主要評価項目として「2年以内にMCIからADへ患者の症状が進行するか」の予測能を設定。世界最大のAD研究プロジェクト「NA-ADNI」と日本人から構成される「J-ADNI」のそれぞれのデータベースの症例を解析し行った。結果、MCI患者群からADに進行する/しない患者の予測における正解率は、NA-ADNIで88%、J-ADNIで84%だった。またAUCは、NA-ADNI では0.95、J-ADNIでは0.91となった。
研究グループでは今後、臨床試験データを活用してさらなる有効性検証、向上に取り組むとともに、AD治療薬の臨床試験の患者選定にこのAIを活用することで、新薬の評価をより正しく行える環境の実現を目指す。また他の精神・神経疾患の脳画像や臨床データに応用することも検討するとしている。