日本の研究グループが、近赤外線により様々な機能を発言する非病原性の細菌を発見し、かつその細菌を活用することで体内の腫瘍を高精度に検出、効果的な排除が可能な「がん光細菌療法」の創出に成功したと発表した。すでにマウスモデルによる基礎的な実験に成功しており、今後臨床試験に向け研究を加速させたいとしている。
近赤外線に反応し、がん細胞に選択的に作用する「光合成細菌」を発見
研究成果を発表したのは、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科物質化学領域の楊 羲研究員、博士前期課程学生の小松 慧、博士後期課程学生のラグー シータル、都 英次郎准教授らの研究グループ。都准教授の研究室ではこれまで、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性に注目した研究を進めているが、今回の研究では、その近赤外レーザー光※1によって様々な機能を発現し、かつ低酸素状態の腫瘍環境内で高選択的に集積・生育・増殖が可能な、非病原性の紅色光合成細菌※2を発見した。
研究グループはこの細菌による新しいがん治療の可能性を見出し、細胞試験による検証後、大腸がん細胞を皮下に播種したモデルマウスの実験も実施。近赤外光を照射した光合成細菌が高い抗がん活性を示すことを確認した。さらにこの細菌の安全性についても基礎的な検証を実施。マウス尾静脈投与後、1週間および1ヵ月後に生存率ならびに血液生化学検査を実施した結果、緩衝液を投与したコントロール群と同等の数値であったことも確認している。
研究グループでは、この技術は将来的に世界をリードする革新的がん診断・治療法に成り得ると期待しており、今後は対象とするがん種の選定、ならびに複数の安全性試験などを行い、10年以内に臨床試験まで進展させたいとしている。なおこの成果は、2021年2月15日にナノサイエンス・ナノテクノロジー分野のトップジャーナル「Nano Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。
※1 近赤外レーザー光
生体透過性の高い近赤外線は、その安全性もあいまって医療分野での応用も多く行われている。特に700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
※2 紅色光合成細菌
近赤外光を利用して光合成を行う細菌。水の分解による酸素発生は行わない。