順天堂大、アプリでの臨床研究報告 ドライアイ未診断者を特定、危険因子を明らかに

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 順天堂大学の研究グループがこのほど、かねてより行なっていたスマートフォンアプリを介してのドライアイに関する大規模臨床研究の結果報告を行なった。その結果、ドライアイ未診断者では「若年齢、男性、膠原病・精神疾患・眼手術の既往がないこと、コンタクトレンズの装用経験がないこと」などが危険因子であることが明らかになった。

アプリを通し、4,454名の参加者を獲得し解析

 報告を行なったのは、順天堂大学大学院医学研究科眼科学の村上 晶 教授、猪俣 武範 助教らの研究グループ。本研究では、リサーチキット(ResearchKit)*1を用いたiPhoneアプリケーション「ドライアイリズム®︎」*2を開発・運用し、クラウド型大規模臨床研究*3を実施した。

  iPhoneアプリ「ドライアイリズム®️」を2016年11月から2018年1月の間(1年2か月)にダウンロードした日本のユーザーを対象に、ドライアイの自覚症状と参加者の基本情報、病歴、生活習慣などとの関連を解析し、ドライアイ未診断者の危険因子を導出。ドライアイの自覚症状の評価には、ドライアイ疾患特異的問診票であるOcular Surface Disease Index (OSDI)*4を使用し、OSDIのスコアが13点以上をドライアイ症状ありと定義した。また、「ドライアイ症状あり(OSDI13点以上)」かつ「過去にドライアイの診断なし」と回答した参加者をドライアイ未診断群と定義した。

 ドライアイリズム®️は上記の対象期間に18,891回ダウンロードされ、21,394の個別医療ビッグデータを収集した。そのうち、基本情報、病歴、生活習慣、OSDIなどに回答した4,454名を本研究の対象とした。ドライアイリズム®️では、年齢、性別などの基本情報と、高血圧、糖尿病、血液疾患、脳疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、悪性腫瘍、呼吸器疾患、花粉症、精神疾患、眼手術歴などの病歴、コーヒー摂取量、コンタクトレンズ装用の有無、点眼使用の有無、モニターを見る時間、睡眠時間、喫煙、飲水量などの生活習慣、抑うつ症状との関連を調査している。

図1: ドライアイ未診断者の割合 ドライアイ症状ありは3,294名(74.0%)であり、そのうち過去にドライアイと診断ありと回答した人は899名(27.3%)であった。その結果53.8%(2,395/4,454)の人はドライアイの症状があるのに、ドライアイと診断されていないドライアイ未診断者であることが明らかになった。
図2: 本研究で明らかになったドライアイ未診断者の危険因子
図2: 本研究で明らかになったドライアイ未診断者の危険因子

 分析の結果、4454名の研究対象者のうち、53.8%(2,395名)を、ドライアイ症状はあるがドライアイと診断されていない「ドライアイ未診断者」として特定した(図1)。さらに、ドライアイ未診断者の危険因子として「若年齢、男性、膠原病・精神疾患・眼科手術・コンタクトレンズの装用がないこと」が明らかになったという(図2)。具体的には、オッズ比*5で年齢は1歳増える毎に0.96倍、女性は男性と比較して0.55倍、膠原病ありは0.23倍、精神疾患の既往ありは0.50倍、眼手術の既往ありは0.41倍。コンタクトレンズの装用歴はコンタクトレンズ非装用者と比較して現在装用が0.64倍、過去に装用が0.45倍、喫煙習慣ありは1.53倍だった。

 研究グループでは、本研究からドライアイ未診断者の危険因子が明らかになったとしており、これにより、症状はあるがドライアイの診断に至っていない「ドライアイ未診断者」に対して早期の予防および効果的な介入につながる可能性があるとしている。なおアプリについては、さらなるドライアイの啓発と予防のため、アンドロイド版の開発およびアップデートを予定しているという。研究成果は米国医師会の眼科学雑誌JAMA Ophthalmology (2019年11月27日付) オンライン版に掲載されている。

*1 リサーチキット (ResearchKit): 2015年12月にApple社からiPhone用のアプリケーション作成のためのプラットフォームとしてリリースされた医学研究のためのオープンフレームワーク。同意取得、質問・調査およびActive Tasksなどの3つのモジュールで構成されており、それらを組み合わせて使うことが可能である。

*2 ドライアイリズム®: 2016年11月に順天堂大学眼科がリサーチキットを用いて作成したiPhone用アプリケーションである。まばたき測定、OSDI質問紙票からドライアイ指数の算出が可能である。ドライアイの自覚症状とライフスタイルをアプリ上で表示することが可能である。

*3 クラウド型大規模臨床研究:クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、インターネットなどコンピューターネットワークを経由して、サービスを提供する方法である。クラウド型大規模臨床研究とは、実際の問診票や質問紙票を持たなくても、インターネットを通じて大規模に行う研究を指す。

*4 Ocular Surface Disease Index (OSDI) : ドライアイ特異的質問紙票で12項目からなる。4段階で各項目を解答し、その結果から100点満点のOSDI総合スコアを算出することが可能である。OSDI総合スコアから
正常: 0-12点、軽症: 13-22点、中等症: 23-32点、重症: 33-100点と分類することが可能である。

*5 オッズ比:ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度。オッズ比が1とは、ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、疾患への罹りやすさがある群でより高いことを示す。

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