非侵襲で脊髄の神経活動を可視化する「脊磁計」を開発 医科歯科大、金沢工大ら

2019年7月24日、東京医科歯科大学、金沢工業大学、リコーの3者は、かねてより共同開発している「脊磁計」の開発成果として、頚部、腰部に加え手掌部や腕神経叢部といった末梢神経の磁界計測にも成功したと発表した。実用化に大きく前進したとしており、リコーは2020年にも医療機器として承認申請を行う見通し。

神経機能計測機器として、唯一の非侵襲的手段

脊髄をはじめとする神経疾患において、人体組織の形態情報を画像化するMRI(Magnetic Resonance Imaging)による画像診断に加え、電気生理学的機能診断が必要なことが多くある。これまで、脊髄をはじめ骨や軟部組織に囲まれた神経の電気活動を体表から測定することが難しく、障害部位の特定が困難とされてきた。また、既存の検査として知られているのは末梢神経伝導検査や体性感覚誘発電位検査だが、いずれも検査時間が長く、神経に電気刺激を与える侵襲的検査であり、また患者が障害を罹患している場合には痛みが生じるなど負担が大きく、普及しているとは言い難い状況でもあった。しかし他に効果的な検査方法はなく、非侵襲での検査法が開発されれば臨床上のメリットは大きいとも言われてきた。

東京医科歯科大学、金沢工業大学、リコーの3者はこのメディカルニーズ実現に挑戦した。神経活動の際に発生する磁界に着目し、脳磁計のように神経活動を視覚化できないか、2014年より共同で研究。脊髄の活動により生じる磁界の強さは、地磁気の10億分の1と非常に小さく、また神経活動の伝播は最大秒速80m程度と非常に速いため、神経活動の測定には高性能な磁気シールドと高帯域で高感度な磁気センサー、そして高度な信号処理技術が必要だった。

共同開発の中で、3者はそれぞれの強みを生かしシステム開発を進めた。金沢工業大学先端電子技術応用研究所は、高感度かつ高時間分解能のSQUID(Superconducting QUantum Interference Device:超伝導量子干渉素子)センサーを開発し、微弱な信号を数十マイクロ秒単位で計測可能とした。リコーはセンシングされた信号を処理し、脊髄の活動の情報と形態画像とを重ね合わせて表示するシステムを構築、東京医科歯科大学は、この「脊磁計」を用いた脊髄神経機能診断法の確立に向けた研究を行った。

海外学会誌の表紙に

研究の進展により、頚部、さらにこれまで計測が困難とされてきた腰部だけでなく、手掌部や腕神経叢部といった末梢神経の神経磁界の計測にも成功したという。今回その研究成果の1つが国際臨床神経生理学会連合(IFCN)の機関誌 Clinical Neurophysiologyに掲載され、表紙に選ばれた。

腰部の神経活動
末梢(手掌)の神経活動

共同研究チームの、東京医科歯科大学先端技術医療応用学講座教授の川端茂徳氏は「従来の診察や画像診断に加え、脊磁計による神経の機能の情報が加わることで、診断がより確実になると期待できる」と実用化の意義を語っている。リコーでは、2020年にも医療機器としての申請を行う方針だ。