既報の通り、コミュニケーションロボットを使用する初めての医療用途も視野に入れた共同開発を、実証実験までこぎ着けた北里大学医療衛生学部 高平尚伸研究室 と株式会社シャンティ。実は研究開始から1年半も経っていないという。この期間でここまで到達したそのスピード感はどこから来たのか。両者の出会いとここまでの経緯を追った。
ロボットなんてまったく考えていなかった
その出会いは2015年8月末まで遡る。毎年、産学連携のマッチングの機会として開催される「イノベーション・ジャパン2015」だった。高平教授は「高齢化社会を見据えたロコモ対策ヘルスケア運動補助装置」(当時は特許出願中)の出展者としてブースに立っていた。展示されているシステムの概要を見て、とても強い反応を示したのがシャンティの面々だったという。
「パネルの個々の説明を読むたびに『これはロボットでできる!これもできる!』と盛り上がっていました。他の方々と熱意が全然違った」
と、高平教授は当時を振り返る。教授は、このシステムをロボットでできるとは毛頭思っていなかったという。しかしその後のシャンティの提案を見て彼らの技術力とロボットの将来性を感じ、共同開発のパートナーとして一緒に取り組むことに決めた。
一方のシャンティは、クリニックの予約受付システムなど医療施設支援のシステムには前身の会社から実績があり、Pepperをはじめとしたコミュニケーションロボットの開発の知見も多数蓄積していた。医療領域でのロボット活用の開発パートナーとしては最適解だったともいえる。
そしてその邂逅に、さらに幸運な偶然も加わっていた。北里大学は複数の病院を運営しているが、一部の病院の立地はちょうど神奈川県のさがみロボット産業特区となっており、資金面も含め便宜をはかってもらえると分かったのだ。実証実験地はグループ内の病院で事実上決まっていただけに、特区ということで援助が得られるなら、実施へのハードルもいくらか低くなる。提案が県に採択され、平成28年度内に実証実験ができると決まり時期的なターゲットが定まったことで共同開発の進捗が進み、先日の実験を迎えることとなった。
知財を明確化することで連携が進む
このプロジェクトには、知財の取扱いで重要な舵取りを担うバイプレイヤーがいる。北里研究所 知的資産センターの佐藤修氏である。氏は知財コーディネーターとして、北里研究所に所属する研究者の知財開発、管理、それらの知財を活用した産学連携プロジェクトの支援、調整等を行なっており、本プロジェクトにももちろん調整役として加わっている。
佐藤氏はその職務上、医療者と製販/開発業者が連携して医療機器開発にあたる、いわゆる「医工連携」にも深く関わってきた。東京都や神奈川で活発になってきた医工連携の動きも、敏感に情報収集している。その佐藤氏が産学連携、医工連携を成功させるポイントとして考えるのは、知財をきちんと特許化することで、ステークホルダー同士の交通整理をすること。ここが明確になれば役割もはっきりし、プロジェクトが進みやすくなるのだという。確かに今回のプロジェクトの場合も、最初に高平教授の知財の提示があり、それをどう実現するかという流れで進んできた。役割が明確だったからこそ開発にブレがなくなり、スピードが上がったのかもしれない。
先日の未来投資会議での首相発言の通り、2025年問題に向けて、医療では「予防・健康管理」、介護では「自立支援」を重視した政策に方向転換される。今回の「体操評価付き健康啓発ロボットシステム」はその方向に沿ったものであり、その面でも、共同開発の進め方としても、先行例になり得るプロジェクトといえる。今後の動向にも引き続き注目したい。