4月6日、聖マリアンナ医科大学の小林泰之先生がFacebookで「えっ、FREE!? 西澤先生、情報ありがとうございます!」とつぶやいたリンクが下記。
Chester the AI Radiology Assistant
訪ねてみると冒頭にムービーがあり、「胸部X-Pでの異常の有無をデスクトップのブラウザに読み込ませた解析回路でAI分析が行われ、14の診断項目で健常〜異常について表示してくれる」ということでした。これは、カナダ・モントリオールの「MILA」という研究室が作成したサイトのようです。
クラウドを使わない、ローカルで使えるAI?
取っつきの悪いインタフェースで最初戸惑ったのですが、下図の「Accept and continue」の赤ボタンをクリックすると解析回路の読み込みが始まりました(図1)。
読み込みが終了すると、心拡大の一例がモデルとして提示され、右側の「疾患評価」テーブルにどの項目にリスクがあるのかが表示されました(図2)。真ん中は「Compute image regions」ボタンがあるだけなのですが、これを押すと、AIが画面上のどの部分に関心を寄せたかが表示されます(図3)。
左側のX-P画像の下に「Show OOD Heatmap」というボタンがあり、それを押すとカラー画像が表示され、データをもとに数字と色に適切な勾配をつけることでAIが把握した画像評価がわかるようになります(図4)。
私自身は内科医ではあるものの、メインは神経内科医であり、胸部X-Pは経験則で評価しており、果たしてそれが正答かどうか迷った時には近隣の呼吸器専門医を紹介したり、胸部CTを撮りにいってもらったりしていましたので、こうした「第三者評価」がAIで提示してもらえるのは非常に助かります。さて、たいした時間でなく読み込める解析回路、まして大がかりなホストコンピュータに読み込まないでの分析で役に立つのだろうか、というのが大きな興味となりました。
そこで実験してみました
そこで、自院の撮影データから20例を抽出し、実際の評価を行ってもらうことにしました。なお、最初にCRで撮影した時に保存されたDICOMデータ(院内保存用の規格)は受け取ってもらえず、JPEGやPNGなどのウェブでよく用いられるデータしか受け入れてもらえないことも確認しました。こうした研究には患者さんの同意などが必要となるのが常ですが、このデータは院外のホストコンピュータには飛ばされない、さらにJPEGやPNGはあくまで画像データだけになるため患者さんの個人情報(氏名・年齢・ID・撮影年月日)はまったく含まれない、などの点から個人情報保護の問題はないものと判断しました。
ここは重要なポイントで、DICOMを直接流すようなシステムだと、画像の匿名化などのフィルター操作も必要となり、日常で診断補助として手軽に利用することが面倒となりますが、当院のようにネットワークに繋がったMacintoshの上でOsiriX MD(医療機器ソフトウェアの認証取得済みのDICOMビューワ)を利用している環境だと、胸部X-P画像を表示し、画面キャプチャを行えばあっさりとPNGファイルが取得できるため、大変便利に活用ができると考えました。さて、20例を抽出するには、明らかに異常なしと思われる画像は選択せず、評価が確定しているものを選択しました。そのうえで、上記の手法でPNG画像を抽出し、ブラウザで読み込んで評価させました。
結果として、20例のうち肺炎(2例)・漏斗胸・右心拡大・右肺門部拡大の計5症例は「トレーニングデータで判読できず」と返されてしまいましたが、それ以外はこちらで確定した評価通りの結果が返されてきました。
その後、肺がんか乳頭かを疑う症例が現われ、この方法で評価したところやはり「Mass」「Nodule」などのポイントがつき、結果的にCTを撮ったところ乳頭であることがわかりました。このシステムは現在無料で使用することが可能であり、もし使い慣れて診断補助としてルーチン化してしまった後から有料サービスになったらどうしよう、と「捕らぬ狸の皮算用」ならぬ要らぬ心配の種になってしまいました。
このサービスはまだ胸部X-Pのみですが、他の部位やモダリティ(CTやMRIなど)への拡大も期待されます。さらにこの解析アルゴリズムをDICOMビューワに内蔵することも可能かと思われ、医師の労力軽減と安定した読影評価の実現に繋がるのではないかと期待が膨らみます。
寄稿:目々澤 肇(めめざわ・はじめ)氏
1981年獨協医科大学医学部卒業。スウェーデン・ルンド大学医学部実験脳研究所留学。日本医科大学千葉北総病院でSCU(脳卒中救急ユニット)立ち上げを行ったのち、1933年から続く目々澤醫院(東京都江戸川区)の第3代目院長に就任。 東京医師会医療情報担当理事となり、地域包括ケアシステム実現に必要なICTネットワーク「東京総合医療ネットワーク」構築を先導した。自身の診療所でも問診アプリを活用するなど、テクノロジーの研究、活用に造詣が深い。東京都医師会 理事
医療法人社団茜遥会 目々澤醫院 院長