伸縮可能な極薄伸縮性導体を開発、皮膚上および体内埋め込み型センサーの可能性を実証 理研ら

 ウェアラブルや体内埋め込み型デバイスの研究開発が各国で進んでいるが、日本人を中心とした国際研究グループが、伸縮可能で皮膚および体内の神経へ密着する極薄の導体を開発し、生体情報を取得するセンサー用電極として使用可能であることを実証した。研究グループではこうした生体組織に匹敵する「柔らかいセンサー」を開発することで、ヘルスケア用途だけでなく工業分野も含めた様々な分野に応用できる可能性があるとしている。

厚さ1.3マイクロメートル、かつ伸び縮みし密着する導体を開発

 研究成果を発表したのは、理化学研究所(理研)開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室の福田 憲二郎 専任研究員(創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム 専任研究員)、染谷 隆夫 主任研究員(同チームリーダー)の国際共同研究グループ。近年、各国で研究が進むウェアラブル、また体内埋め込み型デバイスの実現には、通常の活動を妨げず長時間の計測が可能で、かつ負担感と侵襲性の低いセンサーが必要となる。研究グループでは今回、そのセンサーに不可欠な、極薄かつ伸縮性のある導体を開発した。具体的には、厚さ約1μmのシリコンゴム基板上にマイクロクラック構造※1を持つ金を成膜。この極薄伸縮性導体は、導電性を維持しながら約300%の引張ひずみ※2を示し、生体組織に非常によく密着するとしている。

 さらに薄いイオン伝導性ポリマー※3層と組み合わせると水中でも皮膚に強い接着性を示し、手洗いなどの日常生活や水泳などの激しい運動中でも心電図を安定に計測できた。また、マウスの神経へ密着させ、電気的刺激を与え生体信号を取得する動物実験を行ったところ、高い信号対ノイズ比※4で信号を取得できたという。

 研究グループでは、この極薄伸縮性導体は、皮膚上で安定に機能する生体信号取得センサーおよび、体内埋め込み可能なニューラルインターフェースとして利用することが可能で、さらに、ソフトロボティクスやMEMS(微小な電子機械システム)などの他の分野においても有望だとしている。

※1 マイクロクラック構造
微小な亀裂を持つ構造のこと。今回の研究では、微小な亀裂が金の表面にあらかじめ形成されることにより、引張ひずみが加わったときに亀裂によって力を分散させ、金属が完全に破断することを防いでいる
※2 引張ひずみ
物体を引張る向きに力を加えたときに、その力の方向に生じる変形(ひずみ)のこと
※3 イオン伝導性ポリマー
電解質をイオンに解離し、移動させることができる高分子材料
※4 信号対ノイズ比
一般的には、測定時のシグナル(信号)とノイズ(雑音)の比率を示す。信号対ノイズ比が大きいほど、精度の高い測定データが得られる。SN比ともいう

論文リンク:A 1.3-micrometre-thick elastic conductor for seamless on-skin and implantable sensors(Nature Electronics)