国立精神・神経医療研究センター、効果的なエクソン・スキップを予測できる世界最大のデータベースを一般公開
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、遺伝性神経・筋疾患の治療法開発を目的としたエクソン・スキップのデータベースおよび機械学習モデルに基づく予測システムを世界で初めて開発、一般公開した。神経難病等への新たな治療薬として期待される「核酸医薬品」開発の起爆剤となるか注目される。
エクソン・スキップに関する世界初・世界最大のデータベース「eSkip-Finder」
「エクソン・スキップ」は、アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物であるメッセンジャーRNAのうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことでアミノ酸読み取り枠の「ズレ」を修正する治療法。この手法を用いても、正常なジストロフィン・タンパク質と比べ一部が短縮するものの、機能を保持するジストロフィン・タンパク質が発現することが分かっている。つまりこの手法は、遺伝子変異により失われるはずのタンパク質を回復させる画期的な治療法であり、患者の遺伝子変異パターンに応じてアンチセンス核酸の配列をデザインすることで、様々な遺伝子変異パターンを持つ遺伝性神経・筋疾患の改善が期待できる。この技術をベースにした「核酸医薬品」は、従来の低分子医薬品では難しかった様々な疾患の治療が可能になるとされ、特異性が高く安全性の面にも優れることから「次世代の医薬品」とも呼ばれている。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2020年3月、国内製薬企業と共同で、指定難病のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の8%程度を治療対象とする、国産初の核酸医薬品「エクソン53スキップ薬(ビルトラルセン)」の開発に成功した。次の課題としてDMDの様々な遺伝子変異パターンあるいはDMD以外の神経・筋難病を対象としたアンチセンス核酸医薬の開発に取り組んでいるが、核酸合成に用いる化合物の種類や核酸自体の長さ、設計部位等の複数のパラメータが関係するため、治療効果が期待できるアンチセンス核酸の塩基配列デザインの予測は非常に難しいという問題があった。
この課題に対し、同センター神経研究所の青木吉嗣部長(遺伝子疾患治療研究部)、理化学研究所計算科学研究センターの千葉峻太朗研究員、奥野恭史部門長、アルバータ大学の横田俊文教授らの国際共同研究チームは、DMDを含めた複数の神経・筋難病などを対象に、公知の実験データをマニュアルキュレーションによって収集、世界最大のアンチセンス核酸データベースとなる「eSkip-Finder」をインターネット上に公開した。このシステムにはさらに、治療薬の材料として用いられるアンチセンス核酸の塩基配列情報から、エクソン・スキップ効率を予測する機械学習モデルも搭載された。予測ツールを搭載したウェブツールとしては世界初だという。
研究グループでは、DMDに加えて複数の神経・筋難病を対象に、治療効果が期待できるアンチセンス核酸医薬の塩基配列を迅速にデザインすることが可能になり、神経・筋難病の克服を目指した先端医療研究の加速が期待できるとしている。