センシング用ボディスーツで中等症以上の側弯症の検知に成功 東大とZOZO

 大手アパレルメーカーと東京大学の研究チームが、寸法測定用のボディスーツを応用して脊柱側湾症の検出に成功したと発表した。非侵襲かつ自宅でセルフスクリーニングできるツール開発が期待できるとしている。

寸法測定用のZOZOSUIT®を応用、中等症以上の側弯症を感度 95.3%で検知

図 1:ZOZOSUIT®と検証用に開発した専用のスマートフォン用アプリを用いた側弯症検知のイメージ

 研究成果を発表したのは、東京大学大学院医学系研究科 整形外科学の伊藤悠祐(医学博士課程)、田中栄教授、大島寧准教授、次世代運動器イメージング学講座の土肥透特任准教授[研究当時]、大友望特任助教[研究当時]、東京大学医学部附属病院 手術部の谷口優樹講師らと株式会社 ZOZO(千葉県千葉市)の共同研究グループ。脊柱側湾症は、思春期に多く発症する特発性のものなど自覚症状に乏しいことが知られているが、学校検診等では検査タイミングや感度の問題があり、なかなか早期発見しづらい現状となっている。発見が遅れると当初から装具治療に代表される保存療法や手術が必要になることもあるため、適切なタイミングで検知できる新たなスクリーニング方法の開発が必要とされている。

図 2:思春期特発性側弯症の症例の背部から撮像したレントゲン(10 歳台 女性 コブ角 35°の中等症)
図 3:アプリ内で生成した 3D モデルから抽出した横断像

 研究グループでは、ZOZOが開発した 3D計測用ボディスーツZOZOSUIT®と検証用に開発した専用のスマートフォンアプリを用い(図 1)、主に若年世代の治療を必要とする可能性のある中等症(コブ角※1 25°以上)以上の脊柱側弯症を検知できるか検討を行なった。被験者は自ら、ZOZOSUIT®を装着した状態で1.5m 離した位置に設置したスマートフォンのアプリの指示に従い、30°ずつ向きを変えていき12 枚の写真を撮影。撮像した12 枚の写真からアプリ内で自動的に体表の 3D モデルを生成し、この3D モデルから取得・再構成した各レベルの横断像(図 3)から体幹のゆがみを示す固有値「Z値」を定義し検討した。

 側弯症症例 54 例と非側弯症 47 例で検討を行ったところ、中等症(コブ角 25°以上)以上の側弯症症例では非側弯症群やコブ角 25°未満の軽症群と比較して、以下のように有意に Z 値が高値であることが確認された。

非側弯症群(コブ角≤9°):平均 Z 値=20.7 ㎜
軽症群(10°≤コブ角≤24°):平均 Z値=21.4 ㎜
中等症群(25°≤コブ角≤44°):平均 Z 値=32.3 ㎜
重症群(コブ角≥45°):平均 Z 値=35.2 ㎜)

 また ROC 解析※2を行ったところ、最適なカットオフ値※3として Z 値=19.9 ㎜と算出され、このカットオフ値に設定すると中等症以上の側弯症を感度95.3%、特異度 58.6%で検出できることも確認された。スクリーニング検査としては妥当な感度で、本技術が脊柱側弯症検知のスクリーニングツールの基礎技術として有用である可能性が示唆されたとしている。研究グループは、本技術を応用することで、将来的には検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返し脊柱側弯症のセルフスクリーニングを行うことができる新規診断ツールの開発につながることが期待できるとしている。

※1 コブ角:側弯症の程度を表す角度の指標で立位や座位のレントゲンで最も傾いている椎体(脊椎骨)同士のなす角で計測する(図 2)。
※2 ROC 解析:Receiver Operating Characteristic 解析の略で、受信者動作特性解析ともいう。主に診断用テストやスクリーニングテストの精度の評価に用いられる解析で、ある検査の感度と特異度の関係を示すグラフが得られる。またその検査における最も妥当なカットオフ値を算出することが可能。感度とは病気の人を正しく検出する能力、特異度とは病気でない人を正しく検出する能力を示し、数値が高いほど優れた検査方法と評価できる。
※3 カットオフ値:ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、病態識別値とも呼ぶ。

論文リンク:A novel screening method for scoliosis using a bodysuit and 3-dimensionalimaging(Spine)