デンマークの高齢者ケアが示すもの①

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copenhagen2016
コペンハーゲン中心街の町並み(筆者撮影:2016年6月)

medit.tech編集部の河田です。
高齢化が現実となるにつれ、福祉国家として立国を果たした北欧を先例として学ぼうという動きが活発になっています。その中でもよく取り上げられるのが“世界で一番幸福な国”と呼ばれて久しいデンマークです。実は今年の春頃にご縁があり、デンマークの高齢者ケア、とりわけ認知症ケアについて学びを機会をいただき視察へまいりました。今回はその時の雑感をお伝えしたいと思います。

『高齢者三原則』を打ち立てたデンマーク

その前に、デンマークが現在の高齢者ケアを確立した経緯をお伝えできればと思います。1960年頃から高齢化の兆しが見え始めたデンマークは、当時は日本でいうところの特別擁護老人ホームにあたるような大規模な「プライエム」を建設し、高齢者はそこで暮らしてもらうという政策をとっていました。現在の政策とは真逆の方向です。1982年、転換期が訪れます。高齢者の自立と意思決定を重視した「高齢者三原則」が定められ、これに基づき1988年、「プライエム」は新たな建設を禁止され、高齢者は在宅中心で支えていくという国家方針が定まったのです。

この国家方針に基づき、プライエムに代わり、より小規模で、かつ高齢者が暮らす用途にあわせた設計の高齢者向け住宅の建設、あるいは既存住宅の改修が奨励されていきました。日本で言うところのサービス付高齢者住宅(サ高住)、あるいはグループホームに近いものです(むしろ日本はこれを真似ています)。基本的には、高齢者はできる限り自宅、それが叶わぬ状態になったとしても、適した高齢者住宅で最後まで暮らせることになっています。医療介護サービスは、訪問医、訪問介護を主なかたちとして、高い税金負担を財源に国家サービスとして無料で提供されます(ほとんどのケースにおいて、医師も看護師も関連職も国家公務員扱いです)。

デンマークにも専門施設はある

国全体の経緯としては以上ののような流れであり、ほとんどにおいて高齢者は病院や介護施設に入りっぱなしということはありません。しかし、認知症やその他の精神疾患が重度になってしまった方のケアは、訪問看護サービスや家族だけで支えきれるものでもありません。そうした実状を鑑み、デンマークでも一部の自治体は専門の施設を少数ながら設置し、手厚いケアも提供しています。今年私が紹介され伺った施設は、そのような専門施設でした。

伺った施設はこちらです。

caresenter

Plejecenter Svovlhatten

 

デンマーク第3の都市、オーデンセ郊外にある専門の「ケアセンター」。認知症の方が主ですが、アルコール依存症などの精神疾患の方についても対応しているそうです。デンマークの建築物はほぼすべて素晴らしく、見とれてしまうことも多いですが、この建物も周りも含めとても洗練されたデザインでした。

ホール

ビリヤード台

こちらは、まず通されたホールにあったものです。建物中央に位置し、利用者の個室はその周りに配置されるというレイアウトで、皆が会いやすく、交流が生まれやすい工夫がされています。利用者が若い頃に使っていた家電や、仕事の道具などが飾られたり、ビリヤード台があったりと、記憶を呼び起こさせ、遊びを通じてADLの維持をはかろうというねらいが見えました。しかし素っ気ない機能的な設えではなく、まるで保養地のようなデザインの調度品に囲まれ、穏やかでリラックスできる雰囲気、デンマーク語の“ヒュッゲ”を体現しているようでした。

専門施設においても、あくまで個を重視

この施設でも、利用者にはすべて個室があります。特別に、いくつかのお部屋を見せていただきました。

男性の個室

男性利用者の個室です。比較的活動度のある方のようで、お部屋にはフィットネスマシンがいくつかありました。日本ではこういった器具はかならず専用の別室に集められるものですが、デンマークではそのような考え方はありません。利用者の状態と希望にあわせ、個室に揃えていきます。まさに、その方の暮らしをそこに創っていくのだという思想がうかがえました。

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別の方の居室ですが、写真や家具などはご自宅から持ってきたものが多く置かれています。専門のケアセンターではありますが、自宅のように身の回りを自由に仕立てられるのです。

介護者への配慮も徹底

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各居室には、状況によってリフトが設置されていました。なぜ設置されているのかの理由を別の機会で聞いたところ、驚くべき話でした。重い人間の体を運ぶのは「自分に対する虐待」と認められるから推奨されておらず、もしそれが原因で怪我をしても職員に対する労災が下りない、だからデンマークでは必ずリフトを使うというのです。日本では当たり前のように介護者が自ら抱え運びますが、当然負担が激しく、介護者の主な離職理由に腰痛があげられるほどです。この点、日本は正直考えが遅れていると思いました。

余談ですが、この施設で見かけたリフトは、ほぼ同種のものが先日の国際福祉機器展でも展示されていました。

リフト

もちろんデンマークのGuldmann A/Sという会社が販売しています。日本でも導入実績があるそうです(日本での代理店はアビリティーズ・ケアネット)。

少し長くなりましたので、次回に続けたいと思います。

【お知らせ】

デンマーク第2の都市、オーフスにおける福祉技術政策を、現場担当者が来日して語るデンマーク大使館主催のセミナーが11/30に開催されます。弊媒体でも取材予定ですが、直接政策担当者とお話できる機会はなかなかありませんので、ご都合の合う方はお越しになってみてはいかがでしょうか。当日参加もOKとのことです。詳しくはこちらをご覧ください。

【デンマーク大使館主催】デンマーク・スマートオーフスにおける福祉技術セミナー

 

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