世界初の大規模マイクロバイオームデータベースを構築、薬剤などの影響による細菌叢の変化を明らかに 東京医科大ら

 日本の研究グループが、世界初となる大規模マイクロバイオームデータベースを構築し、このデータベースの解析をもとに腸内細菌叢に影響を与える薬剤の同定など新たな知見を複数見出した。今後研究が進めば、医師の薬剤選択における重要な知見となる可能性がある。

日本人約4,200例を対象にデータベースを構築

 研究成果を発表したのは、東京医科大学消化器内視鏡学分野の永田尚義 准教授と河合隆 主任教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の西嶋傑 次席研究員(現:欧州分子生物学研究所)、理工学術院の服部正平教授(現:東京大学名誉教授)、国立国際医療研究センター(理事長:國土 典宏/東京都新宿区)消化器内科の小島康志 医長、糖尿病研究センターの植木浩二郎 センター長、感染症制御研究部の秋山徹 特任研究部長、国府台病院の上村直実 院長(現:国府台病院名誉院長)らの研究グループ。今回、研究グループは、日本人約4,200例を対象とした詳細なメタデータとマイクロバイオームデータを統合した大規模データベースを構築し、Japanese 4D(Disease Drug Diet Daily life)コホートと命名した(図1)。メタデータには、多彩な疾患や薬剤情報、食習慣、生活習慣、身体測定因子、運動習慣などが含まれ、特に薬剤に関しては750種類以上の薬剤投与歴を網羅的に収集。さらに、4,200例の糞便をショットガンメタゲノムシークエンス※1で解析し、腸内細菌1,773種(種レベル)、 腸内細菌の遺伝子機能10,689個、薬剤耐性遺伝子403個を同定した。このような膨大な生活習慣・臨床情報とマイクロバイオーム情報を統合したデータは世界最大級だという。

※1 ショットガンメタゲノムシークエンス
サンプル中の微生物を単離や培養することなく、DNA集合体を網羅した状態でゲノム配列を解読すること。16S rRNAシークエンスとは異なり全ゲノム配列を対象とするため、より精度の高い菌種組成の解明が可能。また、16S rRNA解析では困難であった、菌叢の持つ機能・代謝遺伝子、細菌だけでなく、古細菌、バクテリオファージ、真菌なども解析可能。

日本人の腸内細菌叢に影響を与える要因をランキング

 研究グループではこのデータベースを解析することで、日本人の腸内細菌叢に関する様々な知見を新たに見出した。まず細菌叢に影響を与える要因を解析し、それぞれの影響度の強さを調べたところ、薬剤の影響が最も強く、次いで疾患、身体測定因子(年齢・性別・BMI)、食習慣、生活習慣、運動習慣の順であることが明らかになった(図2A)。薬剤が及ぼす影響は食習慣、生活習慣、運動より3倍以上も強く、この影響度の強さは、腸内細菌叢を属、種、遺伝子機能等の様々なレベルで解析しても同様の結果だった(図2A)。この結果は、ヒトマイクロバイオーム研究における「薬剤情報の収集の重要性」と「薬剤投与歴を考慮した解析の必要性」を強調する結果だとしている。

腸内細菌叢に影響を与える薬剤の種類をランキング

 次に、薬剤の中でどのような疾患治療薬が腸内細菌叢に強い影響を及ぼすのかを検証した。様々なメタデータを交絡因子として組み入れた多変量解析を行ったところ、消化器疾患治療薬、糖尿病薬、抗生物質、抗血栓薬、循環器疾患薬、脳神経疾患薬、抗がん剤、筋骨格系疾患薬、泌尿器・生殖器疾患薬、その他(呼吸器系疾患薬や漢方薬)の順で影響が強いことが分かった(図2B)。また、消化器系疾患薬の中では、Proton-pump inhibitor (PPI)、potassium-competitive acid blocker(P-CAB)などの胃酸分抑制薬、Osmotic acting laxative(浸透圧性下剤)、アミノ酸製剤、胆汁酸促進剤の影響が強く、糖尿病薬の中ではαグルコシダーゼ阻害薬が最も強く影響することが判明した。さらに、特定の疾患と疾患治療薬の腸内細菌の変動は異なることも確認された。研究グループでは、今回の検証では759種類もの薬剤を対象としており、疾患治療薬という大分類で腸内細菌叢への影響を概観しつつ、同時に個々の治療薬の影響までも詳細に明らかにすることができたとしている。

薬剤の多剤併用(ポリファーマシー)が及ぼす腸内細菌叢の変化を同定

 また研究グループでは個々の患者における薬剤投与の「数」に注目し、薬剤投与数の増加に伴う腸内細菌叢の変化を検証した。4,200例の中で10剤以上の薬剤を服用している患者は603例(14%)だったが(図3A)、薬剤投与数が増えるにつれ日和見感染症を引き起こす病原菌が増えることを発見した(図3B)。特に、Enterococcus faecium、Enterococcus faecalis、Klebsiella Oxytoca、Klebsiella pnuemoniae、 Acinetobacter baumannii、Streptococcus pneumoniaeなどの菌種が薬剤投与数とともに腸内で増加すること(正の相関)を見出したという。

 次に、日本人4,200例の腸内細菌が有する薬剤耐性遺伝子(抗生剤耐性遺伝子)を網羅的に調べ、403個の腸内薬剤耐性遺伝子(Gut resistome)を同定した。薬剤投与数と腸内細菌叢がコードする耐性遺伝子の量との関連を検証したところ、投与数が増加するにつれ、耐性遺伝子の量も増加することが判明した(図3C)。同時に、疾患数と薬剤投与数の間で共通して関連する腸内細菌(Streptococcus属やLactobacillous属など)があること、疾患数、薬剤投与数それぞれ個別に増加した場合、個別に増加する腸内細菌も多数存在することが判明した(図3D)。また薬剤投与数の増加は多様な菌種の減少にも関連しており、その多く(Blautia、Facaebacterium、Lachnospiraceae、Eubacterium、Clostridium、Dorea)は酪酸や酢酸など短鎖脂肪酸を産生する菌であることも分かった。腸内細菌により生成される短鎖脂肪酸には免疫の恒常性を保つ働きがあることが知られていることから、これらの菌種の減少は、宿主の免疫恒常性にも影響することが予想できるという。今回、多剤併用による日和見感染症の病原菌の増加や、薬剤耐性遺伝子の増加、免疫恒常性と関連する菌が減少した知見は、多剤併用が腸内環境へ悪影響を与えることで、好ましくない転帰を引き起こす可能性を示唆しているとした。

薬剤開始による腸内細菌叢の変化と薬剤中止による腸内細菌叢の回復力を解明

 こうした解析で得られた「薬剤や腸内細菌叢との関連」に関して、研究グループはさらに、薬剤が原因で腸内細菌叢が変化したのか(原因)、または薬剤を摂取するような人は元々変化した腸内細菌叢を持っていたのか(結果)を検証した。具体的には、同一患者でPPI投与前後において2回糞便を収集し(N=243)、ショットガンシークエンスを行った。1回目と2回目の糞便サンプルを比較した結果、PPIの使用を開始した後、Lactobacillus属やStreptococcus属の腸内細菌の増加やE,faeciumやS,pnuemoniaeなどの日和見感染症を引き起こす病原菌種が増加することが分かった(図4A)。一方、PPIの使用を中断すると、これら菌種は減少することも判明した(図4A)。これらの結果は、実際に薬剤が原因となって腸内細菌叢が変化したこと、さらにはPPIの使用により変化した腸内細菌叢は、PPIの使用を中断することで元に戻せる可能性が示唆されたとしている。また、薬剤投与数が増加した被験者ではStreptococcus属やLactobacillus属などの腸内細菌が増加し(図4B)、Cationic antimicrobial peptide resistanceなど特定の代謝経路に関わる遺伝子が増加することも明らかになった(図4C)。一方、薬剤投与数を減少することでこれらの菌種や遺伝子機能は減少することも確認できた(図4BC)。以上の結果から、薬剤の使用が実際に腸内細菌叢の変化を引き起こすこと、さらに、不適切または過剰な薬剤投与により変化した腸内細菌叢は、薬剤の使用を中止することでその影響を減らすことができることが強く示唆されたとしている。

 研究グループでは、今回の研究成果は、どの薬剤がどの程度腸内細菌叢に影響するのかを検索できるカタログ(辞書)を提供したといえ、医師や患者が薬剤選択をする上で有用な知見となりえるとしている。また、薬剤により増加もしくは減少することが分かった特定の腸内細菌が、長期薬剤使用や多剤併用により生じる副作用を予測するバイオマーカーになる可能性があること、さらに、特定の腸内細菌をターゲットとした薬剤関連疾患の発症予防や治療法の開発につながることも期待できるとしている。

論文リンク:Population-level metagenomics uncovers distinct effects of multiple medications on the human gut microbiome(Gastroenterology)