【改正医療法施行】医療機関ネットパトロールに違反事例160件、悪質SEO事例も告発
本日、2018年6月1日に、医療機関のWebサイトも対象にした罰則付きの表現規制を含んだ改正医療法が施行された。前日31日には厚生労働省の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」第9回が開催され、これまで寄せられた違反事例が160件に登っていることが明らかになった。また、兼ねてから悪質な医療情報の流布に警鐘を鳴らしている著名なSEO専門家も、悪質なSEOが規制の抜け道になる可能性を指摘した。Med IT Techでは法律施行を機に、前後編でレポート記事を掲載する。今回は前半として、違反事例の紹介となったこの2つの動きを解説する。
大きく広がった規制対象
Med IT Techでは、改正医療法施行の前、細則が定まった時点でその詳細をレポートしている。
この記事でも記載しているので詳細はそちらをご参照いただくとして、改正医療法では、医療機関のウェブサイトだけでなく、特定の医療機関へ受診を誘引する意図があると認められればどの発信者でも規制対象となる。この点は繰り返し強調しておきたい。言うなれば、当サイトも上記の要件を満たせば規制対象である。
医療機関ネットパトロールで多数の違反事例指摘
規制対象が広がった背景には、一昨年発生したいわゆるWELQ問題のみならず、従前から問題になっていた美容医療系やがんの自由診療に関する表現による被害が後を立たないことがあげられる。そのため、改正医療法の施行とセットで検討され先に運用を開始したのが、医療機関ネットパトロール事業だ。
5月31日に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」の第9回で、この事業の昨年度末までの報告が行われた。それによると、一般からの上記サイト経由での通報、受託事業者によるキーワード検索で審査対象になったのが603件、うち不適切表示とされたサイトが517機関160件だったという。
当サイトでもネットパトロールの事業開始時に通報の呼びかけをさせていただいたが、サイトや電話窓口への一般からの通報は1,612件にも及んだという。事実上野放しであったウェブサイトでの悪質な医療情報が、こうした取り組みで批判の目にさらされるのは非常に前向きな動きだ。今回指摘された517機関にはすでに改善を求める通知が出され、66%強にあたる345機関が何らかの対応を行っている。望ましくない事態だが、残りの172機関がもし対応を怠れば今後管轄の都道府県に情報提供され、自治体当局で処分の有無を決めることになる。
具体的な問題表現を例示
検討会では、ネットパトロール事業の事例を参考に整理したとする、詳細な問題表現の例示も資料で示された。以下に例示の部分のみ、網羅的に抽出し紹介する。
[資料で示された問題とされる表現]
内容が虚偽にわたる広告
〈絶対安全の記載〉「絶対安全な手術です!」
〈副作用の記載〉 「アレルギーや副作用はありません」
(針穿刺を伴う治療行為に関し)「感染症の心配はありません」
〈治療効果の記載〉 「どんなに難しい症例でも必ず成功します」
「再発がない○○の治療法」「10分間で10歳若返る」 「1日で全ての治療が終了します」他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告
〈最上級の表現〉 「国内最高峰の○○治療を行うクリニック」 「国内No.1」 「シェアNo.1」「満足度No.1」 「口コミ5年連続満足度1位」
〈他の病院又は診療所と比較して優良である旨の記載〉 「限られたドクターのみが行える 治療」 「どこでも受けられる治療ではありません」 「当院の治療技術が世界的に評価され、○○アワードを5度受賞しています」
〈著名人関係の記載〉 「芸能人や医師も通う○○クリニック」 「モデル・女優・タレントとしてご活躍中の○○さんも愛用しております」 「韓国のタレントさんも御用達」誇大広告
〈センターの記載〉(ガイドラインに明記されている事例以外の)「○○センター」
※ガイドラインでは、地域における中核的な機能や役割を担っていると都道府県が認める場合に限りセンター表記を可能としている
〈許可を強調する記載〉 「知事の許可を取得した病院です」
※病院が都道府県知事の許可を得て開設するのは当然であるのに、許可を得たことをさらに強調してあたかも特別な許可を得た病院であるかの誤認を与える場合には、誇大広告として扱う
当然ながら、これらの個別具体的な表現のみが問題とされているわけではなく、同趣旨の表現も同様に規制されるものだ。また、今回の法改正には単に規制するだけではなく、情報提供の必要性自体は認められるべきとの観点から、以下の要件をすべて満たせば、広告可能事項以外の内容も記載できるとしている(限定解除の要件)。
施行日のこの日は、もうひとつ大きな動きがあった。SEOの第一人者として知られ、WELQ問題の発生以降、悪質な医療情報の拡散について常時ウォッチし、提言を行っている専門家の辻正浩氏が、自身のブログでとある手法について怒りの告発を行ったのだ。
その手法とは「リンクスパム」。特定の検索ワードにおける結果ページの表示順位を上げるために、順位決定の重要条件とされる「被リンク」(=そのページに多くのページからリンクされていること。アカデミア的にいえば、論文引用数に似ている)を組織的、意図的に乱造することである。手法自体は以前からあるものだが、医療機関のウェブサイトに表現規制がかかったことで、回避手段としてこの手法が脚光を浴び、再びネット上の医療情報の「汚染」が行われるのではないかと懸念されているのだ。
実際、ブログでは、がんの免疫療法に関する特定の治療法の事例が取り上げられ、それによって検索順位が上がっているであろうことも指摘されていた。それなりに運用実績のあった中古ドメインを複数活用し、組織的に乱造されたそれらのページは、順位を上げるためだけに作成されているため、医学的に間違った情報であるばかりか、基本的な誤字脱字も一向に校正しないような品質の低いもので溢れていた(詳しくは辻氏の当該エントリーをご覧いただきたい)。
辻氏の紹介したリンクスパム事例は、検索エンジンのガイドライン違反であり、またその表現も、本日施行された法律の表現規制に抵触するものが多かった。その手法の性質から、特定の医療機関のサイトへ誘導するものが前提であるからである。その意味では氏が指摘したような「抜け穴」ではないかもしれないが、しかしそれらのページも、通報され、当局から指導を受けるまで相当の期間放置されるし、その間に検索エンジンが評価してしまえば、辻氏が指摘したように検索上位に入り一般の人の目に触れてしまう。ただ日々膨大な情報が更新されていくインターネットの性質や、表現の自由自体を担保することを考えれば、これらを事前に察知し対策することはされるべきではなく(それは検閲である)、ネットパトロールといった手段で事後的、対症療法的に向かっていくしかない。
とすれば、法規制が入ったいまだからこそ求められるのは、情報の受け手がリテラシーを持つことだ。冷静に医療情報を批評する視点を持ち、問題があれば通報し、信頼できると思えばそれを活用する姿勢だ。とはいうものの、医療情報は一般の方が簡単に見極められるようなものではない。そういった視点を持つための具体的なサポートを、メディア側がすることも必要だろう。
後編はそのサポートになるような、一般の方に向けた「医療情報の探し方、見かた」を、造詣の深い医師にご協力願い探求する予定だ。