ロボットが運動を指導、リアルタイムにアドバイス 神奈川県で実証実験

 

2016年11月24日-25日、北里大学医療衛生学部 高平尚伸研究室と株式会社シャンティは、共同開発している「体操評価付き健康啓発ロボットシステム」の実証実験を、神奈川県相模原市にある北里大学病院で行なった。この実証実験は、平成28年度の神奈川県の公募型「ロボット実証実験支援事業」に採択された13事業のうちのひとつで、コミュニケーションロボットを使い、ロコモティブ・シンドロームの啓発とスクリーニング、運動指導を行なうというシステムだ。medit.techでは今回実証実験の場で、関係者の方々に話を伺った。

 

2体のロボットとKinectで運動指導→チェック→アドバイス

今回のシステムは複数の製品を組み合わせた、以下のような流れで使用するものとなっている(実用化までには構成変更もあり得るとのこと)。

1.Pepperが利用者のロコモティブシンドロームの度合いをテストで確認

25問にわたる設問を、Pepperが声で問いかけ、タブレットで答えてもらう。この25問は日本整形外科学会が公認する、ロコモティブ・シンドロームの啓発、スクリーニング用に使用されるテスト「ロコモ25」を搭載したもの。

 

2.テスト結果に基づき運動

テストによってロコモティブ・シンドロームの度合いをスクリーニングし、要運動指導という結果が出た場合は(ロコモ25において7点以上)、その度合いによって、本システムで用意されている「スクワット」「片足立ち」のどちらかを利用者に提案、行なってもらう。

その際Pepperは、運動内容をタブレット内の動画と声で示しつつ指示。NAOは、利用者の目の前で運動をしてみせ、ガイドする。利用者がそれに従って運動している様子を、Kinectがセンシングする。

このように運動している間、Kinectは利用者の動きを捉えており、理想とする動きとの差異を測定。差異の度合いによって、NAOに「膝の角度に注意しましょう」「横に曲げないでください」といったアドバイスを送るよう指令する。なおこの測定アルゴリズムは高平教授が考案したもので特許を取得している(出願番号:特願2014-226993)。

3.結果を利用者にフィードバック

運動指導が終了すると、Pepperのタブレットしたに据え付けたプリンターから結果とアドバイスをプリントし、利用者へ渡す。指導後のモチベーションを高めるための仕掛けだ。

開始から順調に利用者が訪れる

午前9時から開始された実験には次々と希望者が現れ、取材を終えた午前中には、予定していた20人のうち7割以上を終えていた。待ち時間も発生していたようで、印象としては大変好評に見えた。被験者の1人にお話を聞いたところ「インストラクターの指導と比べれば、(ロボットも自分も)慣れてないので少し違和感があったが、非常に楽しめた。いいと思います」と笑顔で話していた。

 

高平教授「リアルタイムに指導するのが特色」

北里大学医療衛生学部 高平尚伸教授

実証実験に立ち会っていた北里大学医療衛生学部 高平尚伸教授は、システムの概要や今後の見通しについて「ロコモティブ・シンドロームの予防や回復にはPT(理学療法士)のきめ細やかな指導が大切だが、人手の問題がある。今回のシステムはリアルタイムに指導できるのが特色で、この精度が高まれば必ずしも1対1での指導に人手を割くことがなくなる」と述べ、効率的に運動指導ができる突破口になり得るとの見方を示した。またセンシングで、いまどのような運動状態なのかを可視化することで、もれなくしているかの「実施率」、きちんとできているかの「適切な姿勢での施行率」、継続できているかの「継続率」といった指導後のアドヒアランスの状況も可視化できると語った。

 

2日目は「非劣性試験」を実施  厳密な効果測定で研究の信頼度を向上

非公開で行なわれた2日目の実験(写真提供:株式会社シャンティ)

翌日の25日には、非公開での非劣性試験が行われた。今回のシステムによる指導の結果と、本、DVD、PTによる指導の結果を比較するもので、言うまでもなくアカデミアでは必ず行なわれる試験だが、ロボットを含めたフロントエンドのICT開発ではあまりなじみのないもの。このシステムへ将来的に本格的な運動療法の搭載を考えている高平教授のアイデアで実施の運びとなったそうだ。試験結果に関しては、他の採択事業にはないもので非常に注目している、と採択した神奈川県の担当者も語っていた。

この非劣性試験をもって事業としての実証実験は終了。成果は他の採択事業とともに2017年2月に公表されるが、研究室とシャンティとの共同開発は引き続き行なわれる予定だ。