medit.tech 編集主幹の河田です。
medit.tech は小さな媒体ですが、こちらのページに書きましたように、医療関係者の皆様がイノベーションを起こすために本当に必要な情報源となるべく頑張ってまいりたいと存じます。宜しくお願い致します。
ところで、近々にAIについての私なりのレポートをこちらにあげたいと思いますが、この媒体の記事がかなりミスリーディングしていますので、指摘したいと思います。
[他媒体リンク]IBMの人工知能「ワトソン」、医者が思いもよらぬ治療法を続々発見
長いですが、重要な一節なので引用します。
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特に、ここに来て、医療分野におけるワトソンの成果には目覚ましいものがある。たとえば日本では最近、東京大学医科学研究所がワトソンを使って、「急性骨髄性白血病」の患者に対する新たな治療法を見出し、その命を救った、との報道がなされた。
これは実は「まぐれ当たり」ではなく、ワトソンが癌治療に応用された1000事例の30%で、医師(人間)では思いつかなかった新たな治療法を提案しており、それは医学関係者に衝撃を与えている。
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発見ではない。ナビゲーションである
まず、そもそも「新たな治療法」の発見など一切していません。以下の記事がもっとも詳しく事情を書いていますが、これを見れば一目瞭然です。
[他媒体リンク]人工知能 病名突き止め患者の命救う 国内初か
人では量的に読むことができない、がんに関するほぼ、ありとあらゆる研究論文、製薬会社のレポートなどをすべて読み込んだワトソンが素晴らしいサポートをしたことは事実ですが、その読み込んだデータ自体、すべて人の手によって得られた知見です。「二次性白血病」だとワトソンが提案した根拠も、それを研究していた誰かが書いた論文ですし、そしてその病にどういう治療法が有能かも、別の研究者の成果なわけです。つまり新たなものではない。これまでの研究結果をナビゲートしただけです。
AIは医師の敵ではない。
医療を患者へもっと近づけるツールだ
小さな勘違いのように思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ここはとても重要です。なぜなら本当にAIが治療法を開発していると誤解されれば、協力する医師など誰もいなくなるでしょう。本当にそうなら「敵」でしかありませんから。
しかし当然ながら実態は全く逆です。世界中の研究者の膨大なるデータは、人ひとり、いや何人かが全人生を持って獲得しようとしても到底無理な量です。医療においてはその非対称性が、患者さんを救えない要因になりえる。それを解消する、いわゆる「均てん化」ツールの決定版がワトソンであり、味方でありこそすれ敵になどなるわけがない。研究者の方はそれが分かっています。ですので、もう一度引用しますが、
—引用ここから—-
ワトソンが癌治療に応用された1000事例の30%で、医師(人間)では思いつかなかった新たな治療法を提案しており、それは医学関係者に衝撃を与えている。
—-引用ここまで—-
新たな治療法というのは明らかな嘘ですし、正直、このように表現されてIBMの方も少し戸惑っていると思います。ワトソンは知られるべきところに知見を「届ける」有能なコンシェルジェであり、プレイヤーではありません。目指す役割が違いますし、むしろ知見を持っている関係者の協力を得られなければビジネスが成立しないのです。だからいろいろと勘違いされるAIという呼称を嫌い、コグニティブ(認知)なんだと言い続けているわけです。
それともこの媒体は医師が嫌いなようですので、どうしても排除したくてAIが代わりになりつつある、とデマでも流しているのでしょうか。
photo by A Health Blog