デンマーク第2の都市で展開される医療福祉のイノベーションとは? 大使館がセミナー開催
日本とデンマークは2017年に国交樹立150周年を迎える。年が明ければ両国で数多くの記念行事が予定されているが、それとは別に、デンマーク大使館主催で年に数回、日本においてデザインやライフサイエンス分野のセミナーが開催されているのをご存知だろうか。毎回、各自治体で実際に政策にあたる担当者が来日し、まさに今行なわれている施策について説明している。2016年11月30日には、デンマーク第2の都市オーフスで医療福祉のイノベーションを官掌する市の幹部が直接プレゼンテーションするセミナーが、東京都内で開催された。
デンマークでは医療データの統合は既に完了
現在はフィンテックとの統合段階
オーフスでの事例説明に先立ち、国全体のデジタライゼーションの現状について、在日本デンマーク大使館投資部の中島健佑氏より説明があった。デンマーク全体の人口は約570万人で福岡県の人口(約510万人)と近似でありながら、1人あたりのGDPは日本のそれよりも1.4倍ほどであること、WIPO(世界知的所有権機関)の2015年の調査ではデンマークの技術革新力は10位で、日本の19位を上回ることが示された。その要因の一端として電子政府の充実をあげた。
中島氏はインターネットからアクセスできるこの2つのサイトから、住民へのサービス(border.dk)だけでなく、既往歴や通院歴、投薬履歴、検査結果、家庭医への診察予約(sundhed.dk)までできると説明した。また医療従事者は各種の医療情報、患者情報を、自分が担当する患者以外のものに関してもこのサイト上で参照できるという。その背景には、デンマークでは既に日本で言うマイナンバー「CPR」に、個人情報だけでなくバイオバンクにある情報も紐づけられていることを指摘した。つまり医療情報を含む個人情報の電子化、統合ともに完了しているというわけである。従っていまデンマークで国として取り組まれていることは、これらのデータをフィンテックと統合することで決済の手間を減らし、さらに高度な電子政府へと進もうとしていると述べた。
健康状態から入院加療状態まで すべてのステップにテクノロジーを
次に登壇したオーフス市の福祉技術担当であるIvan Kjær Laurdsen氏は、市における健康医療サービスのモデルとして、「入院加療」「遠隔医療」「リハビリテーション」「慢性疾患管理」「家庭での健康管理」「予防」の段階論を採用していると語った。オーフス市では、これらすべてのステップでテクノロジーを導入し効率化を図ろうとしているという。具体的にはケアハウスへのスマート家電の導入で、シャワートイレ、リフト、掃除ロボット、自動開閉の窓や扉を進めようとしており、また居宅でもセンシング機器の導入を進め、見守りの精度を高めたいとした。
自治体が直接さまざまな実証実験にかかわる
オーフス市では毎年市議会から予算を付与され、自治体が多くの実証実験に直接かかわっている。例えば、市内に実証実験を前提としたリハビリテーションセンターの開設。24時間体制で看護師、看護助手が利用者を手助けし、自宅で暮らせるようになるためのリハビリテーションを行なっているが、そこには利用者の状態に合わせて使えるリフト等のさまざまな機器が設置されている。また、実験的事業としてボイスコントロールハウスというものもある。各部屋の扉の開閉などを声で指示できるというものだ。
新しい機器を積極的にそういった施設に導入できるのは、利用者には無料で使ってもらい、代わりにメーカーや自治体が使用状況などのデータを取得し改善へ繋げる、というサイクルが確立しているからでもある、と述べた。オーフス独自の取組みだけでなく、国家プロジェクトとなっているCOPD患者に対する遠隔医療の実証実験や、これから始まる認知症、糖尿病患者に対する遠隔医療の研究もそれは当てはまるという。こうしたデータ利活用を前提としたフローは、すでに統合的な情報基盤が稼働しているデンマークならではのものと言えるだろう。
またオーフス市役所では、市民に新しい福祉機器に触れてもらうスペースを市内の図書館内に設けている。多くの機器が常設で置かれており、図書館を訪れた市民は誰でも試せて、使用感をフィードバックできる仕組みだ。
産官一体となって進む「スマートオーフス」
さらにオーフスではスマートシティ推進のために、市と企業がパートナーシップを直接結んで施策の研究開発を行なうプラットフォーム「スマートオーフス」がある。医療介護だけでなく実に32もの作業部会が設置され、それぞれが自律的に計画を策定しているという。
こうした重層的な取組みで、急ピッチでスマートシティへの歩みを進めるオーフス。デンマーク全体に言えることだが、単に産業振興の目的に留まらず、市民生活への効果を求めながら立場を越え一緒に取り組む「哲学」は、これから待ったなしの変革を求められる日本にも大きな参考となるだろう。