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いま、日本でドローンの実証実験がいちばん行なわれている場所はどこか。
その答えは、福岡に帰結する。
福岡では「ドローンによる買い物代行実験」など、2016年後半から相次いで実験が行なわれている。実は医療への活用に関しても、前回のEDACのほかにもうひとつ取り組みがある。製薬大手のMSD、医薬品卸のアルフレッサ、ドローン開発のエアロセンスからなる、災害時の医薬品配送のモデル構築を目的としたプロジェクトだ。2016年10月24日、彼らは博多湾岸から近郊の能古島までドローンの飛行試験を行い、積載物の状態も含め成功裏に終わったという。
このチームはどう形成され、どのような経緯で福岡の地を選んだのか。そして彼らの目指す、飛び立つ先はどこなのか。関係者に話を聞いた。
「ドローンという“三次元”が有効だと思った」
MSDは2020年までの長期戦略で「科学とビジネスのイノベーションによる成長」を掲げ、イノベーションに積極的に関わることを表明してきた。外部に対しては、日本におけるVCの草分けであるグロービス・キャピタル・パートナーズと組んでベンチャー支援プログラム『ヘルステック』を起ち上げ、実際に3社に対して支援を行なった。取り組みは社内に対しても行なわれ、社員からアイデアを募り、可能性があると判断されたものに支援を行なう「イノベーション・ファンド」を2015年より開始している。藤井氏はその第1期の社内募集に、ドローンの活用アイデアをぶつけたのである。
「日本では、災害時に孤立する可能性のある場所が1万9,000カ所余りにも上る。当然都合良くヘリポートがあるわけではない。ドローンなら高さという「三次元」が加わるので、医薬品配送に有効な手段だと考えた」
アイデアは採択され、実用化の可能性を検証するフィジビリティスタディを経て、アルフレッサ、エアロセンスと事業として進めることになった。災害時といっても配送するものの性格上、医薬品卸の人間が拠点から運び、医療関係者が受け取るというフローは変わらない。この3社になったのは、実際に運用するステークホルダーで研究開発をする重要性をそれぞれが理解していたからだ。
「いきなりドローンを飛ばすというわけではなく、まずは通常の交通インフラ、道路で行けるところまで行くというのが災害時においてもセオリー。これ以上は行けないとなったときに、ドローンを活用する」
と藤井氏は語る。
「私たちはそのフローの中で、中間のボトルネックをなくしていくのが役割」
エアロセンスの嶋田取締役は、別の日の取材に答えた。エアロセンスはロボティクスやセンシング技術を強みとするZMPと、ソニーの出資により設立されたドローン開発ベンチャーだ。このプロジェクト以外でも各地で飛行実験を先駆けて行なっているほか、海外では、国立国際医療研究センターの臨床技師からの声掛けがきっかけで、ザンビアにおける医療関連物資の輸送実験も行なうことになっている。
この2企業に加え、実際の運用でも重要なステークホルダーとなる医薬品卸大手のアルフレッサの知見も取り入れ、共同事業として進めることになった。
「福岡がベストだったと言える」
2016年4月、3社共同プロジェクトとすることを発表。当初はエアロセンス社内や、民間の飛行場を借りた実験を行なっていたが、その後福岡市役所からアプローチがあったのだという。
「新しい取り組みにかなり積極的でいてくださった」と藤村氏は振り返り、福岡で実験を行なうメリットを挙げた。大都市圏からのアクセスが良いことに加え、コンパクトシティであり、中心部を少し離れれば海、そしてほどよい距離に島もある。
嶋田氏も異口同音にメリットを挙げ、それに加えこう語る。
「福岡は特区だからというよりも、地域を盛り上げたいという人たちの気持ちがあるからやりやすいという面がある。市長も若い方ですし機運が高い。(実験地として)ベストだったと言える」
福岡市との調整を経て数カ月後の2016年10月24日、博多湾に面した福岡市西区小戸の海岸から、約2.3km離れた能古島にある設定した地点への飛行試験が実施された。ドローンはマルチコプター型を使い、飛行状態やその間の通信状態の検証のほか、保冷ケースにダミーのシリンジと温度ロガーを入れ、輸送物資の状態も確認。約10分の飛行で、すべて問題のない結果だったという。
人の行けないところへ行き、生死に関わるものを運ぶ
「当日は海の利点を活かし、ボートに乗り込んで、飛行するドローンを常時監視しながら実験できた。福岡市役所の方も7名駆けつけてくださった。今後も複数回、福岡市と協力して実験に取り組みたい」
と藤井氏は語るが、同時にこう力を込めた。
「私たちは飛行試験と実証実験という言葉を使い分けている。飛行試験はあくまで、ドローンの速度や飛行状態、運搬物の温度や状態を確認するもの。実証実験は、ユースケースに従って実際のステークホルダーが参加し、輸送物も実際のものをエミュレートするもの」
より有用性をアピールできる実証実験には至っていないという認識で、2017年中には実証実験にこぎ着けたいとする。詳細は調整・開発中なので明かせないとしながらも、「生死に直接関係あるもの」を運搬することを想定し、そのための容器も検討しているという。さらに高い目標に向かって、プロジェクトは飛行前のアイドリングを続けているようだ。
この目標に対しては、もちろん嶋田氏もコミットしている。マルチコプター型より速く飛行できる、固定翼型VTOL機の開発に注力するのもそのためだ。
「単に飛ばすということではなく、人の行けないところへ行き、人の生死に関わるものを運ぶ。だから速度が必要なんですよ」
都合上、開発中の固定翼型VTOL機を見ることはできなかったが、その言葉には強い自信がうかがえた。そして先日、その言葉を裏付ける発表があった。
提供:エアロセンス株式会社
2017年3月4日、エアロセンスは独自に固定翼型VTOL機の飛行実験を実施。沖縄の竹富島港湾から石垣島の海岸へ、距離約5kmの距離を問題なく、完全な自律飛行に成功したという。エアロセンスは他の地域でも飛行試験を行っているが、実験の蓄積で得られた知見は、3社共同プロジェクトにもフィードバックされることだろう。
さらに相次いで3月10日、政府は国家戦略特区法の改正案を閣議決定した。改正案には、ドローンの自動操縦、自動車の自動運転などの実証実験を推進するため、今後1年以内に規制を抜本的に見直し、特区内では原則自由に実験が行なえるようにするという。この閣議決定により、福岡においてドローンの実証実験がさらに増加することは確実だ。
また同時に、特区内ですでに実験を積み重ねているこのプロジェクトや、前回取り上げたEDACはフロントランナーとしてさらに注目を浴びることになる。その存在や知見が呼び水となり、さらに先端事例を呼び込む好循環が生まれていくだろう。それはまるでドローンが飛び立つ前、プロペラが回り離陸準備を整える姿にも似る。まさに、福岡はイノベーションの発着地として離陸しようとしている。