[プロローグ]其処にある「何か」を探して

プロローグ
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「なぜか、其処には先端例が多い」

このメディアでの取材活動を始めてまもなく、個人的にそんな印象を持った。しかも、単なる研究開始というレベルではなく、社会実装を最初からイメージした「日本初」と冠のつくインパクトのあるケースが多い。まるで、熱せられる液体から気泡が湧き、次第に激しく沸き立っていく途中であるかのように、其処では、医療分野だけではなく様々な分野で注目を浴びるプロジェクトが起ち上がっている。

それぞれは確かに何の関連もないように見える。だが其処には、確かにイノベーションを萌芽させる何かがある気がした。それがひとつか複数なのかは分からない。が、それぞれの事例を連続して俯瞰すれば、もしかすると見えてくることがあるのではないか。

ぼんやりとした輪郭をはっきりと捉えるため、九州の地を訪れることにした。

 

日本初のIoTホステルは、昔ながらの商店街にあった

取材の最初に訪れたのは、IoT活用の先端例である「&HOSTEL」。ロボット活用の先端例である長崎の「変なホテル」とともに、多くのメディアで紹介される日本で初めてのIoTホステルだ。「日本初」「最先端」という言葉からイメージされるそれとは裏腹に、西日本最大の歓楽街・中洲を対岸にのぞむ、昔ながらの地元商店街アーケードの一角に佇んでいた。

オフホワイトを基調に美しくリノベーションされたIoTルームには、11種のデバイスが設置されており、そのすべてをひとつのアプリで操作できるよう工夫されている。アプリがインストールされた専用のスマートフォンは、チェックイン時に手渡される。

専用のスマートフォン。入室から室内の機器操作までこれひとつで行なえる

特徴は既存のIoT機器を単にセットアップしただけではなく、過ごすシーンに合わせたプリセットがあること。例えば「モーニング」モードで起床時間を入力するだけで、その時間に快適に起床できるよう調整されたすべての機器の設定が一度に完了する。あとは何も気にせず眠るだけ。起床時間には、目覚めによい色に設定された照明が自動点灯し、枕元にあるロボットがおはようと声をかけてくれる。個々のIoTも、それらを連携させて操作するためのIoTも既に販売されているが、こうしたソリューションとして設計されたアプリは他にない。

Free Spirit Japan 取締役COO 柴田大輔氏。オープン後の反響はかなり大きいと語っていた

「このアプリは、地元の大学教授の支援を受ける予定です」

部屋を案内してくださった、施設運営を行なう地元企業Free Spirit Japanの取締役COO、柴田大輔氏が明かす。福岡は国家戦略特区である強みを活かし、IoTを活用する先端的な開発拠点も目指している。その先鞭となる&HOSTELには、オープン前より自治体や地元の大学、研究機関などが様々なかたちでサポートを行なっていたという。その一環として、アプリの開発は九州大学システム情報科学研究院の福田晃主幹教授の支援を受けることが決まっている。

事業設計転換の影に見えた、福岡に満ちているもの

さらに柴田氏は事業設計時の話も披露してくれた。実は当初の事業プランはホステルではなかったという。福岡は、他地域よりも近隣国からのインバウンド需要が高い。地元企業だからこそ感じていたそのニーズを事業主と共有し、プランをホステル事業へと転換した。またその背景にも、自治体関係者の細やかな情報提供とアレンジもあったそうだ。

「福岡はプロジェクトがやりやすいんですよ」

取材の途中で柴田氏が語ったこの言葉は、茫洋とした言葉ながら、私が感じている「何か」の手がかりを見せてくれた気がした。それは、地域振興にかける福岡の「空気」といったもの。国家戦略特区であることが契機になり、様々な制度的な支援が整備されていることも事実だが、それを実際にワークさせようという地域の人たちの意欲が、この街の「空気」に満ちているのだ。次の事業展開も見えていると語った柴田氏の顔には、その「空気」に後押しされた自信がうかがえた。