当事者が語る、スマホを活用した臨床研究のメリットとは
2016年11月、Appleの臨床研究用のオープンソースフレームワークResearchKitを活用したアプリ「インフルレポート」を発表し、日本初のスマートフォンを活用したインフルエンザ流行予測の研究が開始された(既報)。2017年4月19日-21日に東京で開催された『HealthcareIT2017』にて、この研究責任者の順天堂大学医学部 総合診療科の藤林和俊准教授が登壇し、スマートフォンを使った大規模臨床研究の可能性について講演した。
「研究を、研究室から日々の生活の中へ連れ出す」
藤林准教授はまず、ICTを活用した臨床研究、特にResearchKitを使った研究について以下のメリットを挙げた。
○日本でおよそ4000万人が持つiPhoneを、臨床研究データを集めるために使える
○iPhone、または連携できる端末からセンシングデータも容易に収集できる
○研究の説明、同意のプロセスもテンプレートで入っており、作成が容易
そして、もっとも大きなメリットを従来手法の臨床研究との比較で説明した。まず比較対象として、2015年に論文化されたインフルエンザの大規模臨床研究を例示。この研究では25施設63名の研究者が、4,727名の被験者のデータの分析にあたった。
対して自身の研究では、かかわった研究者は自分を含め6名、研究開始から半年で10,094名分ものデータが集まったとし、ICTの力を使うことで、少ない労力で多くの被験者データを集められると語った。
ただデータを集めやすい一方で、そのデータの精度が課題だとも指摘した。
例えばさきほど紹介したように、解析対象となったデータ数は10,094名分だが、入力不備もかなりあり相当数を除外したという。またインフルエンザだと報告した症例数も同様で、報告数487に対し解析対象とした数は347と、かなり減ることとなった。
しかしそれでも「ICTを活用すれば、省力でかなり大規模な研究ができる。つまりアイデアさえあれば若手の研究者でも可能だということ。臨床研究の裾野を広げるという意味では大きなチャンス」とし、社会に与えるインパクトと、即効性においても従来手法と比べ優れている点があると語った。ただしこうしたメリットは研究者だけが享受できるものであるとも言い、「データを一部還元してみられるようにするなど、参加者もメリットを感じられる研究デザインにすることも必要」と、研究を成功に導くためのポイントを紹介した。
アプリ「インフルレポート」を活用した研究は現在も進行中だ。こうした視点をさらに取り入れ、今期以降はさらに流行予測を強化したいという。本メディアが既報したように、Google Flu Tredsの例を上げながら「他のデータも複合的に活用して予測精度を上げたい」と、今後の展望について語った。