がん研とFRONTEOヘルスケア 「がんプレシジョン医療」への共同研究開始
公益財団法人がん研究会とFRONTEOヘルスケアは、2017年1月31日、「がんプレシジョン医療」を実現するシステムの開発に向けた共同研究を開始したと発表した。がん研が取り組むゲノム解析技術で得られる検査結果を基に、診断および治療法選択に有用な情報を、FRONTEOヘルスケアが持つ独自の人工知能技術で抽出するシステムを開発する。2021年末までの完成を目指すという。
がんの個別化医療を支援する2つのシステムをFRONTEOヘルスケアが開発
がん研究会は2016年10月に「がんプレシジョン医療研究センター」を設立。がん関連遺伝子の異常を網羅的に解析するクリニカルシークエンスや、血液などから遺伝子の変異を 調べるリキッドバイオプシーなど最新の手法を活用し、がんゲノム情報を始めとするがん患者の各種情報を統合・解析できる仕組みを開発していく。一方、FRONTEOヘルスケアは、その解析結果を基に下す診断や治療法の選択に有用な関連論文などを、独自の人工知能エンジン「KIBIT」で抽出し提案することを目指す。
「KIBIT」の特徴は、教師データを積極的に使うことでエキスパートの知見を活かせることと、他と比べ少量のデータでも精度の高い提案結果を速く導けることだ。ディープラーニング技術を主に活用する人工知能は画像解析に長けているが、大量のデータが必要であることと、解析するハードウェアの能力も最高度に求められ、結果コストが非常にかかるという課題がある。論文を対象とした解析であれば、他の解析技術でも十分に費用対効果の高い成果が得られる可能性があるだけに、今回の試みは非常に示唆に富むものだ。また今回の研究は、教師データ作成にあたり「良質」と研究者が判断した論文を基にするという手法も特徴。医師の暗黙知を「フィルタ」として活用することで、さらに効率的な解析ができる可能性がある。
さらにFRONTEOヘルスケアでは、論文情報その他の文字情報を抽出するという特色を活かし、患者・家族に対する治療法や薬剤の説明を援助する「インフォームドコンセント支援システム」を開発する。医師の説明を聞いている様子を解析し理解度を推定、それに応じて動画を交える等、説明の「粒度」を可変させるという。このシステムも、ともすれば患者にとって精神的苦痛を伴うICの説明効果を高め、服薬アドヒアランスなどに貢献できる可能性がある。
日本のがん治療は、すでにAI競争の時代へ
今回の発表も含め、昨年来から東大医科研とIBM Watsonの実臨床での成果、国立がん研究センターとPreferred Networks、産総研のプロジェクト開始など、すでに日本のがん治療はAI活用を競うステージに入ったと言える段階だ。順調にいけば2020年代早期には、ほぼそれぞれの研究結果、成果が出揃い、治療効果が次々に上がってくることが期待される。