非線形光学顕微鏡画像をAI解析、乳腺腫瘤を自動診断 愛媛大
愛媛大学の研究グループが、鑑別のつきづらい線維腺腫と葉状腫瘍を非線形光学顕微鏡画像を解析し、自動診断できるAIの開発に成功したと発表した。両者は推奨される治療とその侵襲度が違うため、実用化されれば患者により適切なケアを提供できる可能性がある。
研究成果を発表したのは、愛媛大学医学部附属病院 乳腺センター・田口加奈助教、亀井義明講師と同大学大学院医学系研究科・齋藤卓講師らの研究グループ。線維腺腫(Fibroadenoma、FA)は、臨床的には最も頻度の高い良性の乳腺腫瘤であり、主に10~20歳代の女性に多いとされる。一方、同じ良性腫瘤である葉状腫瘍(Phyllodes Tumor、PT)は、画像所見や病理組織像が FAと良く似ておりしばしば両者の鑑別に難渋する。通常、FAは当初は経過観察のみで、増大傾向や腫瘤の大きさが3cmを超えてくれば手術で腫瘤のみを切除するが、PTの場合は増大することが多く、悪性に変化する可能性もあるため、大きさにかかわらず外科的に切除することが推奨されている。また PT は局所再発する事もあるため、腫瘤の周りに正常組織を付けた状態で腫瘤を切除する必要がある。
このように治療方針や術式、侵襲度が変わってくるため、術前画像や病理組織像での両者の鑑別が求められるが、鑑別に関する確立した指標等が存在せず、このため病理診断医の間でも診断結果が一致しないこともしばしばだという。こうした現状に対し、研究グループでは非線形光学顕微鏡の画像と人工知能を用いた、鑑別の参考となる指標の開発を目指した。解析対象としたのは、無染色で生体組織内のコラーゲンを特異的に可視化することのできる第2高調波発生(Second Harmonic Generation; SHG)顕微鏡の画像。SHG によって乳腺組織の間質のコラーゲンを、多光子励起によって乳管上皮細胞、間質の形態・構造を可視化、FA と PT の画像所見を比較することで両者に特徴的な形態が描出されていることを見出した。その上で、深層学習による画像領域分割プログラム SegNet を用い、非線形光学顕微鏡で得られた画像から自 家蛍光を有する乳管上皮領域(Epithelial area)とコラーゲン由来の SHG シグナルを有する間質領域 (Stromal area)のセグメンテーションを実行。SegNetが予測した領域は正解画像と高精度で一致していることを確認した(図1)。
この領域分割の結果から上皮/間質領域比と間質領域内のSHGのシグナル強度を定量化し、FAとPTの鑑別因子としての有用性を検討したところ、乳管上皮/間質領域比は、PTで大きく、間質のSHGシグナルはFAで高いことが判明した(図2)。この2つの指標に対して線形判別分析を行ったところ、正解率 89%と高い識別率で両者の区別が可能だった。研究グループでは、SHGシグナルと上皮/間質領域比を組み合わせることで、より高い精度でFAとPTを区別できることが示され、AIによる画像セグメンテーションと、そこから得られる乳腺腫瘤を分類するスコアリングの有用性が示されたとしている。