【編集部コラム】LINEヘルスケア、この運用で大丈夫と思っているのか?

Med IT Tech編集部です。さきほど時事としてLINEヘルスケアのニュースをお伝えしましたが、こちらでは取材や調査のなかで供覧いただくべきことがいくつかありましたので、コラムとしてお伝えいたします。

問題はこの医師1人だけなのか?

オンライン医療健康相談サービスを展開するLINEヘルスケアは、2020年8月2日、同社のサービスに登録し相談者への対応を行なっていた医師1人について、利用規約違反の行為が確認されたとして当該医師の登録を停止した。現在このサービスは新型コロナウイルス感染症への対応として、経済産業省に採択され利用者に無料でサービスを提供しており、税金の公正な執行に対し責任を持たなければならない事業者として、さらなる説明責任が求められている。ネットでの告発をきっかけに同社が対応経済産業省 「令和2年度補正遠隔健康相談体制強化...
LINEヘルスケアが登録医師の不適切な対応を謝罪 ネットでの告発受け - Med IT Tech

 

本日、時事ニュースとして掲載した通り、LINEヘルスケアに登録し利用者の相談を受けていた医師1人が、利用規約違反を行ったとして利用停止を受けました。同社は暴言を受けた利用者に対し全面的に謝罪しており、今後もしかるべき措置を行うとしています。

しかしSNS上では、利用停止となった医師以外にも、利用者の相談に対し適切な回答をしていない、経歴についても不適切な記載が見られるなどの指摘がなされています。記事に書きました通り、現在LINEヘルスケアは国の事業採択を受けて「税金を使って国の事業を行なっている」立場ですので、この件を事故のように取り扱うべきではなく、今後税金で賄うに足る運営体制を担保できるのか、丁寧に説明しなければならないと思います。

このコラムでは取材の中で、このサービスの現状をより詳しくお知らせすべきと感じる事実がいくつかありましたので供覧いたします。

【ご留意いただきたい点】
このコラムは同社だけを論うためのものではありません。同様の相談サービスを行う会社は多数あり、相談を受け付ける医師のモラル、運営会社の姿勢も多種多様です。確率論として、他社サービスのなかでも今回の件と同様の、看過できない事例が発生している可能性はあります。そういった中であえて今回取り上げましたのは、LINEヘルスケアのサービスが現在、事実上税金によって運用費の一部を賄われている状態であることから、税金の不適切な処理に繋がらないよう指摘する必要性を感じたためです。

さて、同社が利用停止した医師は、当然ながら現在LINEヘルスケアの画面には登場していないわけですが、他の登録医師の方のプロフィール等、情報提供は適切な状態でしょうか。経歴のなかに、詐称や誤解を招きかねないあいまいな記述はないのか、多くの医師の情報を調べてみました。

とある登録医師の経歴

LINEヘルスケアは、LINEアプリ内で友だちとして追加するかたちで利用が可能になるサービスで、追加するだけなら無料でいろいろと情報を見ることができます。相談に応じる登録医師のプロフィールもすべて見ることができます。大体の医師の方は本名、場合によっては顔写真や所属医療機関を住所、連絡先も含めて開示されています。

しかし少数ではあるもの、顔写真なし、名前は名字だけ、卒業した大学名や専門についての記述も満足に書かれていない医師が、複数存在することが確認できました。上記のキャプチャは一例にすぎませんが、典型的な例です。学歴がまともに書かれておらず、内科、小児科、皮膚科、耳鼻科、整形外科と幅広く相談できると書いてあります。豊富な経験を持つ総合診療医かと想像させそうですが、この医師は20代、経験年数4年だそうです(プロフィールより)。つまりまだ研修医です。

また「資格」の欄に単に所属する学会を書いており、誤解を生じさせかねない記述となっています。ここに「専門医」「指導医」といったスペシャリティが書いてあれば問題ないのですが、年会費を払えば参加できる学会名しか書いてないのでは、詐称と言われても致し方ないでしょう。

繰り返しますがこれは典型的な一例に過ぎません。複数の医師のプロフィールがこのような状態でした。多数ではありませんが、複数こういった事例が見られるということは、LINEヘルスケアが運営事業者として適切な情報管理を行なっているのか、糾されるべきことを示唆しています。

「おすすめ」の基準は大丈夫なのか?

LINEヘルスケアが相談サービスを提供する診療科は「内科」「小児科」「産婦人科」「整形外科」「皮膚科」「耳鼻咽喉科」の6つとなっています。利用者はこの中から相談したい内容に適した診療科、そこに登録している医師を選んで相談するという流れです。多くの医師が登録していますので、選択に迷わないためなのか「おすすめ」医師が各科で上部に紹介される仕組みが導入されています。ちなみに、これは診断をしない相談サービスだからできる仕組みです。オンライン診療を提供するサービスで「おすすめの医師」を表示したら、医療広告ガイドラインに引っかかります。

(個人情報が含まれるため画面を一部加工しています)

編集部で、全ての診療科の最初の画面を調べてみたところ疑問に残る表示内容でした。医師が自ら登録する情報に依拠するしかないのは理解できますが、小児科と内科で「おすすめの医師」が常に一緒、かつ複数の診療科目で同じ医師がレコメンドされるというのは、きちんとしたアルゴリズムが導入されているのか疑問を持たざるを得ません。

不思議に思い、何度か表示順の根拠を画面を見ながら探ったところ、例外はありますが、ほぼ各診療科で回答数が多い順に並べていることが分かりました。どうも「回答数が多ければ良質な対応をする医師」と判断し、目に留まる場所に表示するアルゴリズムのようです。しかし「健康医療相談」というサービスのあるべき姿を考えた時、それだけが正しい基準かどうかと言われれば違う、としか言いようがありません。しかも、上位に表示される医師に限ってプロフィールの記述が曖昧で、とても信用できるような経歴を持ち合わせているとは言えません。LINEヘルスケアはこの事実を認識しているでしょうか?

登録医師の中には、さきほども申し上げましたが、フルネーム、顔写真をしっかり載せ、卒業大学名、所属機関名、専門医資格、相談を受けるにあたってのモットーなど詳細に記載している医師も多くいます。どう考えてもこうした方々が上位のおすすめに表示されるべきであって、単に回答数の多さだけで上位表示という便宜を図っているとするなら、税金を使うにふさわしい、コロナ禍で不安に苦しむ国民に対するサービスとして適切なのか、厳しく問われても致し方ないと思えました。一言にしてしまえば「質の担保をする気があるのか」ということです。

同社は昨日の事象を受け、登録停止した医師に対し、さらにしかるべき処置を行うとしています。しかしこうしてサービスの現状を見た時、単に悪辣な対応をした個人の問題として止めるべきではなく、サービスの基本設計自体を見直すべきなのではないかと感じざるを得ませんでした。同社の今後の対応をしっかりと見極めたいと思います。