【目々澤肇コラム】胸部X線画像+AI vs CT

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はじめまして、目々澤肇と申します。

小岩の江戸川に近いほうで、戦前から続く医院をやっておりまして3代目です。地域の診療所はテクノロジーに触れる機会が少ないですが、最新のテクノロジーは医療の非対称性を改善し、患者さんに最良の医療をお届けする需要なツールであると認識しており、個人的にも医師会の職務としても積極的に取り組んでおります。

東京都医師会で進める病院間の電子カルテ相互接続システム「東京総合医療ネットワーク」は、そのひとつです。ローコストで病院間の電子カルテの情報を参照できるようにするものです。まだまだ普及と高度化が必要なものですが、もし将来どの病院でも、その時担当する医師が、患者さんの過去の情報を統合して見られたり、即時にチームで共有することができるなら、必ずや医療者のすばやく適切かつ安全な治療選択をサポートしてくれることでしょう。そしてそれは患者さんにとって明確なメリットだと思います。

自分の診療所の取り組みとしては、某社のAI問診のシステムを活用しています。設問の回答内容で疾患可能性を類推し、適切な設問をエスカレートしていくもので、入力された情報は電子カルテにも反映できるなど非常に効率が上がりました。AIは活用のしかたで医師の診療をエンパワーメントするものだということを実感しており、最近はAI関連の最新研究もチェックするようにしています。

ということでこちらのコラムでは、医療に貢献しそうなICTに関する論文や事例などを皆さんとシェアしていけたらと考えています。
さて、その最初として、「胸部レントゲン画像の読影でAIが医師を超えてきた」というJAMAの論文を、それと対極に位置する国内の論文をご紹介します。

Development and Validation of a Deep Learning–Based Automated Detection Algorithm for Major Thoracic Diseases on Chest Radiographs

この論文を簡単に要約すると、正常所見54,221枚と異常所見35,613枚を活用して肺悪性腫瘍、活動性結核、肺炎または気胸の検知精度を検証したところ、ディープラーニングベースのアルゴリズムを搭載したAIによる診断(DLAD)のほうが医師による診断を上回ったとのことです。医師は3群(一般医・放射線専門医・胸部読影のスペシャリスト)に分け、それぞれDLADとの正確度をCTなどでの検証を含んで検証しています。

結果的にはDLADは一般医や放射線専門医より正確度が高く、胸部読影スペシャリストと優劣はないもののより高い正答率を記録しています。一般臨床における胸部X線写真は「大丈夫」と判断できない症例では「?」と感じたら一般医であっても次のステップに進みます。しかし、健康診断だったとすると状況は一変し見落としは患者さんの生命に多大なる影響を及ぼします。

昨年ニュースとなった「杉並区の肺がん検診見落とし」は読者はよくご存知のことかと思いますが、その事後処理の経過は非常に大きな問題提起がなされたのではないかと思います。当事者であった河北医療財団では検診施設における胸部X線写真の読影過程における見落としを受け、第三者機関による検証等委員会の答申もだされたものの、弁護士を委員長とし、医師2名・安全工学研究者、患者団体代表の計5名の委員で作成された河北特別調査委員会の報告書において、自らの瑕疵は認めつつも厚生労働省の定めた肺がん検診のそもそもの方法論に疑問を投げかけるものでした(医薬経済2018.12.15)。

こうした肺がん検診の方法論を考える際に、本論文のDLADの成績はひとつの解答となり得る可能性があります。とは言え、現在の「AIによる判断には医師の検証が必要」という法的状況下ではなかなか導入困難かもしれません。

この対局にある論文が、くしくも同じ日に私の目にとまりました。それはお茶の水循環器内科院長である五十嵐健祐先生がFacebookに記したもので、同院のWebサイトに引用も交えてわかりやすい記載がなされています。

原著のアドレスはこちらです。

かいつまんで言うと、日立市で導入された低線量CT肺がん検診により、X線検診群に比べCT検診群では肺がん罹患リスクが23%増加した(発見される率が高かった)のみならず、肺がん死亡リスクは51%と大幅に減少した、これは非喫煙者と軽喫煙者の双方で減少していた、というものです(Jpn J Clin Oncol:2019; 49: 130-136)。

現状の肺がん検診の問題点に対し、胸部X線画像を撮ってAIによる読影を加える手法、そして最初から低線量CTを行う方法のふたつが俎上に乗ってきています。今後両者を直接比較するような検討が行われるのか、たいへん興味が持たれるところです。

 

寄稿:目々澤 肇(めめざわ・はじめ)氏
1981年獨協医科大学医学部卒業。スウェーデン・ルンド大学医学部実験脳研究所留学。日本医科大学千葉北総病院でSCU(脳卒中救急ユニット)立ち上げを行ったのち、1933年から続く目々澤醫院(東京都江戸川区)の第3代目院長に就任。 東京医師会医療情報担当理事となり、地域包括ケアシステム実現に必要なICTネットワーク「東京総合医療ネットワーク」構築を先導した。自身の診療所でも問診アプリを活用するなど、テクノロジーの研究、活用に造詣が深い。

東京都医師会 理事
医療法人社団茜遥会 目々澤醫院 院長

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