【目々澤肇コラム】Apple Watch心電図機能のPMDA承認、おめでとう!
思えば長い年月でした。Apple WatchのSeries4が登場したときに米国仕様で採用された心電図機能。この機能の日本導入により日本国内での脳塞栓発症が少しでも減少させられるように、との思いから、日本医師会の医療IT委員会で「PMDAでの認可が進むよう、また Apple が認可申請していないなら日本医師会から逆にラブコールを送るようなアクションがとれないものか」という提案を行ったのが平成30年の10月でした。この時はあえなく「複数の関連学会からの要望があがらない限り日本医師会からの発信を行うことはできない」という返事をいただいています。この後、日本脳卒中学会の主要メンバーを前にApple Watch心電図機能の国内導入を求め、幹部の会合の議題にまでしていただいた(らしい)ものの、結局は「反対する人たちがいて実現できなかった」というメッセージを受け取りました。不整脈がご専門の超有名ドクターに相談したときなど「そんなものが日本で使われたら外来が混んで困る!」とまで言われてしまいました。
そのApple Watchが、9月4日にPMDAにて「家庭用心電図プログラム」および「家庭用心拍モニタプログラム」として承認され、昨日7日からネットを賑わせることとなりました。この「家庭用医療機器プログラム」としての認可は国内初、とのこと。素晴らしい落とし所があったものだと感心しています。ちょっと考えてみると、厚生労働省がどう考えたかがよくわかりました。あくまでApple Watch心電図機能は「持ち主に普通ではないことを気づかせる」ものである、ということ。もし動悸・息切れに気づいてApple Watchで心電図を撮って「心房細動が疑われます」とアラートされたら、症状が続くなら急いで、また症状が途切れたのなら慌てずにかかりつけ医を受診して相談しましょう、と言うことです。ここまで、あっという間の2年間でした。「ホントに長い」年月でした。
さて、そうした記録をもちこまれたかかりつけ医はどうすれば良いか?まずはその場で12誘導心電図を撮ります。そこで心房細動が確認できれば、そこで診断がつきます。もしそうでなかったら?その患者さんはもしかすると「発作性心房細動」という発見の難しい状態かも知れません。実は僕の不整脈はApple Watchでは「判断不能」とされていましたが、「チェックミーPro」という、医療機器認可をとっている携帯型心電図で記録したところ心室期外収縮の連発でした。こうしたところが「家庭用機器」と「プロ用機器」の違い。間違っても、Apple Watchを何台か買い込んで「××外来」など実施してはいけません。Apple Watchで気づいた患者さんはきちんと医療機関を受診してプロの医療者としての検査機器で精密検査を受ける必要があります。その代表的な機器としてはホルター心電図。24時間超の連続記録を自動分析して診断をつけます。また、トレッドミルなどで負荷をかけた心電図も「アリ」。しかし、発生頻度が低くしょっちゅう発生していない不整脈には「携帯型発作時心電図記録計心電図:代表は前述した「チェックミーPro」が必要。こういった装備はすべてのかかりつけ医で用意されているとは限りませんが、必要に応じ精査加療のできる医療機関を紹介してもらえるはずです。
言い換えると、もし「患者さんがApple Watchが心房細動があると言った、だから抗凝固剤を出した、そしたら患者さんが出血性病変で死亡した」という事例があったら医者は裁判で負ける、ということにもなりかねません。これだけはご用心ください。
さらに、医療記録としては患者さんがApple Watchで持ち込んだ心電図データをどうやって記録するかも問題。院内にAir Printを受けつけるプリンタがあれば、そこに向けてApple Watchに紐付けられているiPhoneから「プリント」してもらうのが簡便。また、iPhoneではアプリ「ファイル」にPDFとして心電図データを保存することも可能。保存したPDFをAir Dropで受け取ればOK。でも、この技は目々澤醫院のようにMacをメインシステムとしている診療所でなければ無理。とは言え、われわれ医師にとって、特に脳卒中を主たるフィールドにしている自分にとってApple Watch心電図機能の認可はたいへん嬉しいニュースです。一日も早いAppleからの実装発表が待たれます。
寄稿:目々澤 肇(めめざわ・はじめ)氏
1981年獨協医科大学医学部卒業。スウェーデン・ルンド大学医学部実験脳研究所留学。日本医科大学千葉北総病院でSCU(脳卒中救急ユニット)立ち上げを行ったのち、1933年から続く目々澤醫院(東京都江戸川区)の第3代目院長に就任。 自身の診療所でもAI問診Ubieや電子聴診器Nexstetho®️を活用するなど、テクノロジーの研究、活用に造詣が深い。医療法人社団茜遥会 目々澤醫院 院長