イーロン・マスク氏のAI企業、脳埋め込み型BMIの臨床試験を申請

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革新的な企業経営者として知られるイーロン・マスク氏が、2016年に設立していた企業「Neuralink」の事業説明会を米国時間2019年7月16日に初めて開催した。同社は自社開発した半導体チップ、電極などを脳の特定部位に埋め込むことにより、重度の脊椎損傷などで身体を動かせない患者のための新たなBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)の提供を目指すという。実用化のための臨床試験をFDA(米国食品医薬品局)に申請していることも明らかにした。

チップ、電極、手術ロボットを自社開発

neuraLink CEOのイーロン・マスク氏

宇宙産業、自動車産業のイノベーションで知られるイーロン・マスク氏の新たなビジョンは、人体とAIの融合だった。米国時間2019年7月16日に開催された、新しいベンチャー企業「Neuralink」(2016年設立)の初めての事業説明会で、同社の研究開発内容が初めて明かされた。

Neuralinkが自社開発したチップ「N1」
「N1」と体外で接続する中継器。中継器はiPhoneとBluetooth接続する
中継デバイスの装着イメージ

そのための必要な技術として、脳に直接埋め込む形式のBMIプロダクトの自社開発が進行中であることを発表した。頭蓋骨に固定する約4ミリ四方のチップ「N1」と、脳の第一運動野へ「thread(スレッド)」と呼ばれる直径4~6マイクロメートルの糸状の電極(頭髪の4分の1程度の細さ)を脳に埋め込み、脳からの信号を読み取る。読み取られた信号は「N1」を通じて耳裏に装着するデバイスに送られ、このデバイスを中継器としてBluetooth接続したiPhoneへ届けるという。

Neuralinkが開発したスマートフォン用アプリ
Neuralinkが開発したスマートフォン用アプリ

このシステムを通じ、脳からの信号だけでiPhone、マウス、キーボード操作ができるとする。マスク氏によるとマウスのほかサルでも実験しており、実際にサルがPCを操作できているという。また電極等の埋め込みを自動で行える手術ロボットも開発しており、安全な手術が可能だとした。この手術ロボットも含めすべてのプロダクトに医師として関わっている脳神経外科医のマシュー・マクドゥーガル氏によれば、最初の実用化用途は、脊髄損傷で全麻痺の患者に対する動作・操作支援ソリューション。この目的でFDA(米国食品医薬品局)に臨床試験の申請を出している。

複数の脳神経系疾患への対応、その先に目指すは「人間とAIの融合」

事業説明会では、同社がその先に目指すものについてもプレゼンテーションが行われた。このシステムを構成するthreadには3,000以上の電極が入っており、1,000個のニューロンの働きをモニタリングすることができるという。また、全身の運動を司るといわれる第一運動野に埋め込むことで、さまざまな可能性が広がるとしている。

第1の可能性としては、不随意運動を発生させてしまうパーキンソン病、ジストニア、てんかんの発作の兆候を、信号パターンをAIが検知し、是正する信号を出すことで治療する可能性。この研究開発を進めることでAIが強化され、将来的には運動に関することだけではなく、痛みや言語、ビジョン、空腹感といった感覚に近いものまで検知でき、外部に発信することができるようになればとしている。

イーロン・マスク氏は以前からAIは人間の脅威になると懸念を表明している。その理由として、人間が知覚している情報の一部だけを学習するAIによって人間が管理される恐れがあるためとしていた。このNeuralinkが開発するBMIとAIであれば、脳からの全情報を把握できる可能性があるため、人間の利益に叶うAIが開発でき、共存できるということのようだ。

同社は今回の発表に合わせ、BMIインターフェイスに関する論文を公表している。ただしレビューなどは受けていない。

 

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