WiFi信号の深層学習で呼吸不全検知の可能性 米の研究
Wi-Fiの電波信号を深層学習で解析することで、室内にいるヒトの呼吸状態を把握できる可能性が出てきた。米の政府系研究機関が、既存のWi-Fiルーターの様々な信号で検証し、高精度に検出できることを確かめたという。
Wi-Fiの「CSI信号」を呼吸状態の検出に応用
研究成果を発表したのは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)と米Center for Devices and Radiological Health(CDRH)の研究グループ。患者の呼吸状態の把握は、睡眠時無呼吸症候群、喘息、不安、肺炎、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患などの疾患の診断にとって大変重要な要素だ。しかし既存のモニタリング手法は接触型のみであり、近年普及しつつあり、今後も求められる遠隔医療などには適用できないため、新しい手法の開発が求められている。
そこで研究グループは、すでに広く実用化されているインターネット無線接続のためのWi-Fiルーターに着目した。Wi-Fiルーターは機器との接続状態把握、維持のために複数の信号を発信し、その状態を解析している。研究グループはそのうち、Wi-Fi チャネル状態情報(CSI)と呼ばれる信号の応用を検討した。CSI 信号は通常、信号が送信機から受信機までどのように伝搬するかを明確にするために使用され、伝搬する信号の大きさと位相の変化に関する情報が埋め込まれており、信号の粒度が細かく、障害物等でどのように位相が変化するのかも解析しやすいからだ。この信号を用い、ヒトの胸部の動きによって変化するCSI信号を解析することで、呼吸状態を検出できるアルゴリズム「BreatheSmart」を深層学習により開発。その有効性を実験環境で検証した。
無響室に設置された実験環境では、医療用マネキンを配置し、ぜんそく、肺炎といった疾患状態をシミュレートしたものを含む9パターンの呼吸で動作させ、パターンごとに計測されたCSI信号を解析。なおWiFiルーターはインターネット接続のための設定そのままということではなく、CSI信号を最大で1秒間に10回要求するようファームウェアを変更している。検証の結果、開発したアルゴリズムは、こうした呼吸パターンを99.54%、さらに呼吸速度を98.69%の精度で分類できることが確認された。研究グループでは、WiFiルーターの信号を生体モニタリング目的に応用できる可能性を示したものだとし、今後、様々な研究が行われることを期待するとしている。