アクセラレーションのかたち③:MetLife Collab Japan アクセラレータープログラム(前編)

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前回に引き続き、アクセラレーターの動向についてお伝えする。2016年11月より、メットライフ生命保険とのコラボレーションを前提としたプログラム「MetLife Collab Japan アクセラレータープログラム」が開催されている。このプログラムは世界的な保険会社が関わっているということの他に、メンタリングのかたちやステークホルダーの多様性など、いくつかの特色を持ったプログラムとして注目されている。2回にわたって報告する。

明確なテーマ設定が示す方向性

2016年12月15日に行なわれたピッチイベントの参加者

12月下旬にかけ、書類選考、一次選考を経て10社が進出。プログラムの最初のオープンイベントである昨年2016年12月15日、この10社のピッチセッションが開催された。ピッチの前後で、メットライフ生命の幹部からプログラムの目的と今後の期待について語られた。

メットライフ生命保険 執行役専務 チーフカスタマーマーケティングオフィサー 谷貝淳氏

執行役専務 チーフカスタマーマーケティングオフィサーの谷貝淳氏はまず、自社が行なった調査を紹介。消費者は保険会社に対し、支払以外の幅広いサービスを求めていることが分かったと語った。要望に応え、提供価値を拡大するため、ベンチャー各社の「尖った発想」に基づいた提案に期待したいとした。同じく執行役員 経営企画担当の前中康浩氏は、メットライフ生命がベンチャー企業のビジネスプランに貢献できることとして「コンテキスト」をあげた。つまり保険会社の抱える顧客の環境やライフステージといった「状況」のことだ。前中氏は具体的に、保険会社が関わっている、顧客の『家族』『健康』といった文脈を加えることで、ベンチャー企業のビジネスをスケールできるのではと示唆した。

また、このプログラムはコラボレーションが目的であるだけに、テーマも明確だ。Webサイトにもある通り3つの募集テーマが設定されており、健康増進・疾病予防に対するソリューションを提供する「ヘルスケアサービス」、支払プロセスにおける煩雑さを排除する「支払・請求プロセス」、生命保険の隣接領域である医療と介護のソリューションを提供する「医療・介護へのアクセス」について募集する。前中氏が提示した『家族』『健康』というコンテクストも踏まえた、サービスインを視野に入れた実践的な取り組みを求め、また期待する設計となっている。

(出典)アクセラレータプログラムWebサイトより

この日は10社がピッチを行ない、短い質疑応答のあと、メンタリングを行なう 「ベンチャーパートナー」5社の担当者との面談が行なわれ、終了。後日、以下の5社が最終プレゼンテーションへと進んだ。

 

当日行なわれたメンタリングの様子。5人のメンターが当日参加したチームすべてと面談した
最終選考会進出ベンチャー

HIKARI Lab  / 認知行動療法理論に基づいたRPGゲーム「SPARX」

ミナカラ / 薬剤師による処方薬の無料宅配サービス

サイマックス / トイレ後付型ヘルスモニタリングサービス

ファミワン / 妊活・不妊治療について相談できる匿名制Q&Aコミュニティ

YOU-U / 契約保全分野に貢献するメッセージングサービス「保険彼氏」

長期のメンタリングと多面的なメンター陣がもたらすもの

(出典)アクセラレータプログラムWebサイトより

この5社が最終選考会に向けてのメンタリングを受けるわけだが、特徴的なのはそのメンタリング期間だ。4月10日には最終選考会が行なわれる予定だが、それまでの年明けから3カ月間はメンタリングに充てられた。実にプログラムの半分以上の期間がメンタリング、ということになる。このプロセスは、プログラムを監修するインキュベイトファンドのノウハウに拠るところが大きい。インキュベイトファンドは日本におけるベンチャー・キャピタルの草分けとも言える存在であり、様々な分野のベンチャーを創業期から支援してきた。現在もメドレー、クオリア、iCAREなど著名なヘルスケア企業に出資している。

彼らの独自のプログラムのひとつに「Incubate Camp」がある。資金提供を希望する起業家と、有望なビジネスプラン/起業家を探している投資家が一同に会し、1カ月前後の長いメンタリング期間の中で1対1のチームとなる。その後審査員の判定を受ける最終プレゼンテーションまでがっちりとタッグを組み、ビジネスプランをブラッシュアップしていくというものだ。そのプロセスにはあらかじめスケジュールされたセッションは特になく、チームそれぞれが、必要に応じて面談を重ねていく。いわゆる業界用語に当てはめれば「ハンズオン支援」ということになるのだろうが、インキュベイトファンドのこのプログラムにおける支援は、密度が格段に濃い。

今回のこのプログラムもそのノウハウを導入し、このスキームに沿って、インキュベイトファンドのほか、グロービス・キャピタル・パートナーズ、Eight Roads、日本医療機器開発機構(JOMDD)、アーキタイプベンチャーズの5社が「ベンチャーパートナー」としてメンタリングを行なっている。またNPO法人 医療の質に関する研究会(質研)と、河北総合病院が「メディカルパートナー」として、臨床的見地からみたアドバイスを提供している。

この期間のメンタリングについて、ファミワンの石川勇介氏とHIKARI Labの清水あやこ氏に、オンラインにてインタビューした。

Q1:メンタリングの進め方について教えてください

ファミワン石川勇介氏:決まったルールはなく、担当となったキャピタリストとメットライフ生命のメンターにより随時柔軟に対応いただけそうです。打ち合わせの回数や中身も、ゴール設定やそれに向けた効果検証の方法など、チームとなって一緒に議論するイメージです。
HIKARI Lab清水あやこ氏:ミーティングの頻度は決めていないのですが、「必要に応じて開きましょう」と言っていただいています。本日も明後日もミーティングでかなりがっつり協力していただいております。ユーザーの方へのテストも行う予定でして、大変有り難い機会をいただいております。(編集部注:回答は2月初旬頃)

Q2:今回のメンタリングを受けてよかったところは
ファミワン石川勇介氏:今回は「生命保険とのシナジー」に特化している分、メンタリングの方向性も定まっていてゴールを握りやすいという印象を受けています。
HIKARI Lab清水あやこ氏:本当に学ぶことが多いです。今まで考えたこともなかったようなアイディアが生まれたり、詰めが甘かったところが精緻化されたりしています。

 

今回のベンチャー企業の中には、他のプログラムで過去にメンタリングを受けたところもあるが、また違った価値を感じているようだ。

流動化を起こし、健全に競争していく環境をつくりたい

4月10日の最終選考会を前に、プログラムを統括するインキュベイトファンドのアソシエイト、木村亮介氏に話を聞いた。

ー3カ月間のメンタリングの流れについて教えてください

インキュベイトファンド木村氏(以下、木村氏):チームそれぞれです。だいたい2週間に1日のペースでミーティングするようにはしていましたが、柔軟にいろいろやっていくという感じでした。内容は、最初の1カ月はメットライフ生命様とベンチャーの戦略のアラインメント、次に共通のゴールの設定、最後の1カ月は最終選考会に向けてのピッチ内容の作り込みという感じです。

ーコラボレーション前提のプログラムならでは、という点はありましたか

木村氏:ちょうどいま取り組んでいるところですが(編集部注:インタビューは3月初旬)、メットライフ生命様が社内で使っているプレゼンテーションのフレームワークに合わせてピッチ内容を作り込んでいくということでしょうか。これは敢えて私がそうしましょうと決めました。

ーそれは、どういった理由からでしょうか

木村氏:本プログラムでのプレゼンテーションの目的は、あくまで事業会社であるメットライフ生命様との事業提携を進めることです。そのためにはメットライフ様社内で慣れ親しんでいるフレームワークを使った方が、それぞれのビジネスプランに対する理解を深めてもらいやすいのではないかと考えたのが理由です。

もうひとつの理由としては、メットライフ生命様では、以前から社内でイノベーションプログラム「Innovation Day」をなさっていて、そこでさきほどもお話ししたフレームワークも使っていまして、純粋に優れている部分があるなと感じたからなんですね。やはりグローバル企業ですので、著名なコンサルティングファームなどとのビジネスを通じた事業検討のノウハウの精度が高いなと思ったのです。このフレームワークを取り入れてベンチャーがビジネスプランを磨くことも、非常に有益だなと。

ーなるほど、そういった取り組みもされていらっしゃるんですね

木村氏:「Innovation Day」は、メットライフ社内で新規事業を企画しているアントレプレナーが、ビジネスプランをピッチする機会なんです。お邪魔させていただいて彼らのピッチを聞いて、こういった大企業にもこうした機運があり、しかもこの社内にいらっしゃる方々は、ビジネスプランのゴール、キャッシュポイントをどこに設定できるかという点で、ベンチャーと比べ一日の長があるんだという発見がありました。私はその場で、この分野のイノベーションを活性化させる意味でも、社内外問わずイノベーションの芽を作ってくれる貴重なタレントを健全に取り合いをして、競争して育てていく環境を作っていきましょうというお話をしました。

というのは、ヘルスケア分野はピュアコンシューマーが非常に少ないということがあるからです。市場構造として保険者等を通じてのサービス提供、BtoBtoCを遅かれ早かれ考えざるを得ない。つまりこの分野で事業展開、イノベーションを起こすということは、ベンチャー側としては既存の企業とコラボレーション、既存企業側としてはアントレプレナーやベンチャーのアイデア、技術を活用していくということだと感じたわけです。そして、それがしやすい環境づくりのためには、アイデアや想いを持つ人材が、どちら側からでも支援してもらえるスキームが必要です。今回のようなプログラムが、そのきっかけになればいいと考えていますし、機会があれば今後も続けたいですね。

木村氏が訴えるように、ヘルスケア/医療分野は、特に日本では国民皆保険制度と民間の保険者の両建てであることから、最終消費者だけを相手にしたビジネスは機会が非常に限られる。その意味で、大きなステークホルダーである保険会社が直接関わることは、市場全体のイノベーションを活性化する上で非常に重要だ。

Med IT Techでは、4月10日の最終選考会のもようも後編として報告する予定。

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