東京大学、AIを活用したヒトiPS由来細胞培養の品質管理法を開発 一般的なPCでも高速

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2019年5月27日、東京大学大学院薬学研究科・薬学部 薬品作用学教室の折田健大学院生と池谷裕二教授らが、人工知能を用いたヒトiPS由来細胞(心筋細胞)培養の品質管理に成功したと発表した。精度は熟練者の品質判定に対して89%の確率で、ごく一般的な市販のノートパソコンで実行させても、判別精度を維持しつつ1秒あたり約2,000枚の判別が可能だという。

624枚​​の画像を畳み込みニューラルネットワークで訓練

iPS細胞による再生医療の研究は、多くの研究者の尽力によって一部の部位について臨床研究段階に至っているほか、その前段階の基礎的安全性を確認する段階でも大いに活用されている。さまざまな場面で効率的な培養法の確立が求められているが、現状では経験豊かな実験者の勘による品質管理が主流だ。一つ一つの培養を顕微鏡でチェックする作業であるために時間効率が悪く、また実験者の熟達度によって判定が異なる可能性があるなどの実務的問題や、その技術が属人的であることによる教育の困難さなども指摘されている。それらの課題を克服するため、研究グループは、画像分類に秀でたディープラーニング技術を活用し、ヒトiPS由来心筋細胞の品質を自動で判別できるかを検証した。

 

畳み込みニューラルネットワークによる訓練の概要
畳み込みニューラルネットワークによる訓練の概要

 

具体的には、培養ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)の明視野画像624枚を熟練者により正常(556枚)と異常(68枚)に分類。さらにこれをトレーニング用(77.8%)、検証用(11.1%)、テスト用(11.1%)に分けて精度を検証した。ただしトレーニングのために624枚の画像から224×224ピクセルの画像をランダムにトリミングし回転させるなどして天地を変え、それぞれ14,000、2000、2000画像に増幅させている。

 

検証結果(P<0.001)
検証結果(P<0.001)

検証の結果、熟練者の品質判定に対して89%の確率で正解した。また汎用性を考えれば低スペックのパコソンでも高速に判別できる必要があるが、学習後のアルゴリズムを、ごく一般的な市販のノートパソコン(Core i7-6700HQ・4GBRAM搭載)で実行させたところ、判別精度を維持しながら1秒あたり約2,000枚の判別が可能だったという。

研究グループでは「従来は熟達者の勘に頼ってきたヒトiPS由来心筋細胞の品質管理を、ディープラーニングで代替する新たな道筋が示された」とし、この成果は、創薬の効率化だけでなく、ヒトiPS細胞の基礎研究にも貢献するものと期待できる、としている。なおこの研究成果は2019年5月4日付でJournal of Pharmacological Sciences電子版に掲載された。

 

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